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「水俣病問題は終わっていない」 水銀規制の「水俣条約」を前に日本は何をすべきか
水銀の採掘や輸出入、水銀を使った製品の製造などを規制する「水俣条約」が採択された

「水俣病問題は終わっていない」 水銀規制の「水俣条約」を前に日本は何をすべきか

多くの被害者を出し、「四大公害病」の一つに数えられる水俣病。その原因となった「水銀」の採掘や輸出入、水銀を使った製品の製造などを規制する「水俣条約」が10月10日、水俣病の舞台となった熊本県で採択された。本会議には約140の国と地域の代表約1000人が集まった。

今回の条約では、水銀を含んだ製品の製造や輸出入を2020年までに禁止することや、石炭火力発電所から排出される水銀の削減などが明記されている。先進国の水銀使用量は減っているが、アジアやアフリカ、南米などの小規模な金採掘現場では水銀が広く使用され、廃水や汚泥が河川や田畑に垂れ流されて汚染が拡大しているという。

この条約は、水俣病の患者らが被害の悲惨さを伝えたことをきっかけとして、制定する動きが加速。今年1月、日本政府の提案を受けて条約の名称を「水俣条約」とすることが決まった。一方で、この条約の内容について、「規制が弱く、汚染防止には不十分。名称だけが先走っている」などと、水俣病被害者団体や市民団体の一部から批判する声もあがっているという。「水俣条約」にはどのような意義があるのだろうか。公害問題にくわしい内川寛弁護士に聞いた。

●水銀規制の「歴史的な一歩」として評価できる

「この条約の規制対象となる水銀は、水銀蒸気になって肺から吸収されたり、有機水銀などの水銀化合物になって人体に取り込まれると、強い毒性を示します。

水俣病の原因となったメチル水銀は、食物連鎖によって生物濃縮され、主として中枢神経を傷つけ、軽症から急性劇症、さらには死亡に至るまで、甚大な人体被害をもたらしました」

内川弁護士はこのように、水俣病の概要を説明する。今回の条約は、悲劇がふたたび世界で繰り返されることを防げるのだろうか。

「こうした水銀と水銀化合物について、先進国と発展途上国が歩み寄って、健康と環境を守るために地球規模で規制する枠組みができたことは、水銀規制の歴史的な一歩として高く評価することができます」

条約の意義は大きい……ただしそれは「第一歩」に過ぎないとも言えるようだ。

「条約についてはまず、早く『発効』させる、つまり効力を発生させることが課題です。また、発効後は、画に描いた餅にすることなく、実効性を確保することが重要となります。

実効性の観点から見ると、この条約には、PPP(汚染者負担の原則)が明記されていないことや例外が多いことなどから、規制が弱いと言われています」

●日本の政府・国民は「水俣病問題」を再認識すべき

多大な被害を発生させ、患者たちの苦しみを目の当たりにしてきた国として、日本はもっと厳しい規制を呼びかけてもよいのではないだろうか。

「水俣条約という名称を提案したわが国としては、条約前文で『水俣病を教訓に』とうたっていることをあらためて肝に銘じるべきです。

まず、『水俣病問題はまだ終わっていない』ことを、国全体できちんと再認識する必要があります。未救済被害者による裁判は続いていますし、水俣湾埋立地では、大量の水銀を含む汚泥が未処理のまま眠っています」

なるほど、政府・国民はそうした現実と、真っ正面から向き合うべきだと言えそうだ。

内川弁護士は「こうした課題をきちんと解決し、国内法を整備した上で、日本自身が条約発効時の批准50カ国に入らなければ、国際的な理解を得られないでしょう」と指摘する。日本が堂々と「水俣条約」を批准し、リーダーシップを発揮していくためには、まずはこうした国内の問題解決が欠かせないと言えそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

内川 寛
内川 寛(うちかわ ひろし)弁護士 あおば法律事務所
あおば法律事務所 共同代表弁護士 熊本県弁護士会・司法制度調査委員会委員長,子どもの人権委員会副委員長

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