福島県飯舘村の住民77人が、福島第一原発の事故で田畑が使えなくなったとして、約18億3000万円の賠償を東京電力に求めている。住民と東電の和解に向けた手続きが、原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADRセンター)で行われている。その協議の中で「東電側の不正行為が発覚した」として、住民と代理人弁護士が4月10日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた。
●重要資料を「仲介委員だけ」に見せていた
住民側代理人の秋山直人弁護士によると、東電側が重要な資料である田畑の「不動産鑑定書」を、正式な形で提出せず、「センター限り」として原発ADRセンターの仲介委員だけに、こっそり見せていたことがわかったという。
原発ADRセンターの仲介委員は、双方の主張を中立的な立場で検討して和解案を出す、いわば裁判官のような役割を担っている。そのため、原発ADRセンターの手続きでは、証拠書類を提出する場合、仲介委員だけでなく、相手方にもコピーを渡すことになっているという。
秋山弁護士は「極めて重要な証拠である不動産鑑定書を、センターにのみ提出し、相手方に伏せておくことは、手続きの公正さを著しく損なう。証拠について批判的な検討ができない。これは許しがたい、姑息な行為だ」と批判した。
センターの担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「証拠は、センターと同時に相手方にも送付することになっている。センターだけに見せて、相手方に送付しないということは、手続きとして想定されていない」としている。
●「不動産鑑定書」とは?
今回の賠償金額をめぐり、住民側は、飯舘村が2012年につくった土地買収単価基準を根拠に、田んぼ1平米あたり1470円~1540円、畑1平米あたり1310円~1340円の賠償を求めている。
一方で、東電が主張している賠償額は、田んぼ1平米あたり480円~500円、畑1平米あたり340円~350円と大きな開きがある。そのため、住民側が「あまりにも安すぎる」として、和解仲介手続きを申し立てているのだ。
そして、この「東電基準」の根拠となっているものが、焦点の「不動産鑑定書」なのだという。
●「センター限りで出してますけど」
事態が発覚したのは4月3日、原発ADRセンターの東京事務所で開かれた協議で、東電の代理人を務める弁護士が、不動産鑑定書について「センター限りで出してますけど」と発言したことがきっかけだった。
秋山弁護士らがその場で「聞いていない」「不公正だ」と指摘したところ、仲介委員は不動産鑑定書について見たことを認めたうえで、「証拠とはしない」と発言したという。
秋山弁護士らがセンターに説明を求めたところ、「不動産鑑定書」は今年1月19日に「センター限り」として提出され、担当の仲介委員と調査官の全員が内容を確認した、と回答があったという。
仲介委員は、この「不動産鑑定書」を正式な形で証拠提出するよう東電に求めたが、東電側は「個人情報が含まれている」として証拠提出しない方針だという。
●「他のケース」も調査を
秋山弁護士らは4月9日付けで、東電とセンターに抗議。「仲介委員の頭は一つしかない。いくら『証拠としない』といっても、影響を受けないわけがない」「このままでは東電寄りの和解案になる可能性がある」として、仲介委員と調査員の交代をセンターに求めた。
秋山弁護士は「東電の代理人は今回、当たり前のように、悪びれもせず、『センター限りで出してますけど』と発言した。これまでも同じように重要な資料を『センター限り』として、提出していた疑いがある」と指摘。今回のようなケースが他にもあったかどうか、センターに調査を申し入れたことを明らかにした。