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いよいよ判決「美濃加茂市長事件」現金授受があったとされる「現場」から見えた矛盾点
現金授受があったと検察側が主張するファミリーレストラン

いよいよ判決「美濃加茂市長事件」現金授受があったとされる「現場」から見えた矛盾点

学校施設への浄水プラント導入をめぐる汚職に問われている岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長に対する判決公判が3月5日午後、名古屋地裁で開かれる。全国最年少市長の座をつかむ若き政治家が、30万円の現金を2度にわたって平然と受け取っていたのか、それとも億単位の詐欺を働く業者がつくり上げた「虚構」の上の冤罪(えんざい)なのか。判決言い渡しを前に、現金授受があったとされる「現場」に足を運び、いったい何が起きていたのかを考えてみた。(ジャーナリスト/関口威人)

●不自然な点が多いファミレスでの「現金授受」

検察側の主張する最初の現金授受の現場は、美濃加茂市役所から600メートルほど西にある国道沿いのファミリーレストランだ。

2013年4月2日の昼ごろ、当時は美濃加茂市議だった藤井市長は、贈賄側業者とされる名古屋市の浄水設備販売会社「水源」の中林正善社長から、メールを通じて面会を求められ、このファミリーレストランを待ち合わせ場所にして会うことした。

中林社長はすでに、自身の会社が扱う浄水プラントを美濃加茂市内の学校プールに導入してもらおうと、名古屋市議の秘書T氏を介して藤井市長と知り合っていた。プラントの説明をすると、藤井市長はその必要性を認め、市の担当課長に資料を手渡すなど積極的に動いてくれた。議会では関連の質問をしたと聞いた。中林社長は、藤井市長にこうした「スピーディーさ」を保ち続けてもらうために「お金を渡さなければならない」と考えたのだという。

判決を目前に控えた3月2日、私は、そのレストランを訪れた。当時と同様の平日のランチ時間帯に入店してみた。店内は半分以上のテーブルが客で埋まり、にぎやかだった。小さな子ども連れのファミリーから背広のビジネスマンのグループまで、客層は幅広い。店員は慌ただしく注文を取ったり、食事を運んだりして動き回っている。

藤井市長と中林社長、そしてT氏は店内一番奥のテーブルに3人で着席したという。そして中林社長によれば、T氏がドリンクバーに飲み物を取りに行った隙に、藤井市長との「現金授受」があったのだという。

だが、藤井市長もT氏も、公判で「現金授受はなかった」と真っ向から否定している。T氏は「ドリンクバーには最初に3人で行き、その後、自分は席を一切外していない」と繰り返し証言している。また、藤井市長の弁護団は、たとえT氏が1人でドリンクを取りに行ったとしても、席からの距離は3メートル程度なので、振り向けば見られてしまうような状況で賄賂の現金を手渡そうとするのは不合理だと指摘する。

実際の現場はどんな感じなのか。私は、そのドリンクバーの位置に立ってみた。たしかに、席はすぐ右横にある感覚だ。立つ位置によっては死角ができなくもないが、普通ならドリンクを注いでいる間に多少なりとも席が視界に入り、人の気配も感じる。

それにもかかわらず、中林社長が浄水プラントの資料を入れた大きな封筒から、現金10万円の入った小さな封筒を引き出して「これ少ないですけど足しにしてください」と差し出し、藤井市長が「すいません、助かります」と言って受け取ったーーといったやりとりが白昼堂々と行われたとは、ちょっと考えにくい。

弁護団はこのファミレスについて、捜査当局が、市長を起訴するまで実況見分すらしていなかったことを明らかにしている。さらに、中林社長の取り調べでは、T氏が同席していたことが後から思い出されたことになっているなど、1回目の現金授受については不自然な点が多いと言わざるを得ない。

●中林社長には有罪判決が出ているが・・・

一方、2回目の現金授受は、名古屋市内の繁華街にある居酒屋が現場だとされる。

夕方から営業するこの店は、落ち着いた照明で、店内全体が薄暗い。2013年4月25日、中林社長は午後9時ごろからT氏と入店し、藤井市長は後から到着した。3人が座ったのは入り口と正反対の窓際の奥で、小上がりの座敷に掘りごたつ状のテーブルがある席だ。隣のテーブルとは衝立で仕切られている。

中林社長は、ここでもT氏が席を外している間に、藤井市長への現金授受を企てたという。テーブルを挟んで互いに向かい合っていたのを、中林社長がわざわざ回り込んで市長のすぐ隣に移り、テーブルより低い位置から現金20万円入りの茶封筒を差し出すと、藤井市長は「いつもすみません」と言って受け取ったというのだ。

公判で、やはり藤井市長は「茶封筒など受け取っていない。中林社長と2人きりになった記憶もない」と反論した。T氏も「席を外したことはない」と主張している。しかし、検察側証人として出廷した居酒屋の店長は、接客に動き回っていたのではっきりとした記憶ではないとしながらも「1人がどこかに行かれて、白っぽい(服の)2人になった」と証言し、藤井市長と中林社長が2人きりになったとほのめかした。

この店の状況については「密室」的で、ファミリーレストランほどに不合理さを指摘することは難しい面があるといえる。そこで、市長側弁護団は、むしろこの会食の前日、中林社長が藤井市長に「50万円」を渡したいと言って知人から金を借りようとしたにもかかわらず、実際には会食当日に銀行から3000万円もの融資金が振り込まれ、結局はそれを原資にしようとしたなど、資金の動きの不自然さを強調している。

中林社長が銀行などを相手に企てた融資詐欺は15件、計4億円近くにのぼる。当初、検察側はそのうちの2件、わずか2100万円分を立件するにとどめたが、市長側弁護団の告発を受けて、その他の事件の一部を追起訴した。だが、検察側が全容解明に及び腰である点は否めず、弁護団は、検事と中林社長との間で「ヤミ司法取引」があったのではないかと追及している。

中林社長はこれらの詐欺や藤井市長への贈賄などで、今年1月に懲役4年の実刑判決を受けた。この中で藤井市長への30万円の賄賂が裁判所によって認定されたが、別の裁判官による別の証拠に基づく審理のため、藤井市長自身の判決に影響することはない。

こうしたいくつもの「ねじれ」や「ヤミ」を含め、裁判官はどう見てきたのか。注目の判決は3月5日午後2時から名古屋地裁の法廷で言い渡される。

(弁護士ドットコムニュース)

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