国によって義務づけられた司法修習を一日中受けているのに、お金がもらえないのはおかしい――。元司法修習生たち110人が、そんな風に主張して、国に1人あたり1万円の損害賠償を求める裁判を9月9日、東京地裁に起こし、記者会見を開いた。
司法修習は、司法試験に合格した人たちが受ける約1年に及ぶ研修で、合格者が裁判官・検察官・弁護士になるためには絶対にくぐり抜けなければならない関門だ。司法修習生については2011年まで「給費制」という制度があり、国から毎月20万ほどのお金が支給されていた。
今回の訴訟は、給費制を廃止した法改正を「違憲無効」として、制度の復活を求めることが主な目的だ。東京のほかに熊本と札幌でも同様の訴訟を起こす予定という。
●「理不尽なことがまかり通っている」
原告団長の石井衆介弁護士は記者会見で、司法修習を「ブラック企業」になぞらえて、次のように話した。
「新卒で採用し、一年間研修を義務として命じているにも関わらず、その間まったく無給。しかも兼業もできず、健康保険料も個人負担・・・そんなブラック企業があったら、マスコミなどから袋叩きにあうことは間違いありません。それくらい理不尽なことがまかり通っています」
また、もうひとりの原告団長の芦葉甫弁護士は、自身の修習時代を次のように振り返った。
「司法修習を積むには、法律の専門書が必要ですが、高価なのでなかなか買えませんでした。
また、第一線で活躍している先輩法曹たちの話を聞く『学びの場』に出かけるための交通費もかさみました。
さらに、東日本大震災が起きて間もないころだったので、(原発事故のあった)福島の状態を見るのも勉強の一環と考えましたが、新幹線代・宿泊代をねん出をするために、食費にもしわ寄せが行きました」
芦葉弁護士によると、2011年に給費制が廃止されて以降、司法試験合格後に経済的な理由で「法曹への道」を断念する人があらわれているという。
弁護団の共同代表をつとめる宇都宮健児弁護士は、「司法は国民の人権を守るためにある。給費をカットされた原告だけではなく、国民の人権を守るための制度を確立したい」と今回の訴えの意義を強調していた。