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日米で裁判ラッシュ、生成AIと「著作権」めぐる攻防広がる…福井健策弁護士が「視点」解説
画像はイメージです(freeangle / PIXTA)

日米で裁判ラッシュ、生成AIと「著作権」めぐる攻防広がる…福井健策弁護士が「視点」解説

生成AIをめぐって、米国と日本で注目すべき裁判が相次いでいます。

米カリフォルニア州の連邦地裁は今年6月、米国の作家らが米アンソロピック社を相手に起こした訴訟で、AI学習は米国著作権法が許容する「フェアユース」にあたると判断して、著作権侵害を否定しました(なお、8月に双方が和解合意に達したと報道されています)。

一方、日本では、読売新聞東京本社などが8月、記事を無断利用されたとして、生成AIを使った検索サービスを展開する米パープレキシティ社を相手取って、利用差し止めと損害賠償などを求めて東京地裁に提訴しました。

パープレキシティ社に対しては、その後、朝日新聞や日本経済新聞も同じような訴訟を起こしており、大手メディアによる提訴が続いています。

生成AIの利用が広がる中、各国の裁判がどのような判断を示すのか注目されています。米国と日本では、今後どのような判断が積み重ねられるのでしょうか。著作権法にくわしい福井健策弁護士に聞きました。

●米国の裁判動向

──米連邦地裁の判決をどう評価しますか。

AI学習をめぐる著作権訴訟は、米国で30件ほど進行中とされ、連邦地裁の判断も揺れています。最大の争点は、AIによる学習が「フェアユース」にあたるかどうかです。

2月のウェストロー事件判決は、生成AIではなく、検索サービスのためのAI学習でしたが、「競合サービスのために競合相手の著作物を無断学習している」としてフェアユースを否定しました。

5月には、連邦著作権局が出した生成AIに関する報告書(プレ公表部分)で、「商業的な目的で、大量の著作物を用いてAIにより、それらと競合する表現コンテンツを生み出す場合、とりわけ違法なアクセスによってそれが実現された場合には、フェアユースの既存の範囲を超え侵害になる」として、フェアユースに否定的な姿勢を示しました。

この背景には「希釈化論」があります。AIがコンテンツを生成する並外れたスピードと規模の巨大さが、表現の類似性を問わず、学習された作品の市場を希薄化させ、深刻なリスクをもたらすという考えです。

ところが6月、作家らによるアンソロピック訴訟では、カリフォルニアの連邦地裁が「学習された文章と類似した表現を生み出さないAI学習自体はフェアユース」として、初めてフェアユースを認定します。ただし同時に、学習のために700万以上の海賊版を汎用目的でダウンロードした行為は著作権侵害と認定しており、ややトリッキーな判決でした。

さらにその2日後、同じ地裁の別の判事が、META社の生成AIをめぐる事件で、連邦著作権局とほぼ同じ「希釈化論」に立って、著作物を著作権者の許可を得ることなく、また報酬を支払うことなくAIモデルに投入することは、大多数の場合はフェアユースにあたらず違法であると判断し、前述の判決を痛烈に批判しました(ただし、このケースでは、立証固有の事情からフェアユースを肯定)。

これらの経緯は、拙稿コラムで詳しく触れましたが、要するに、米国の裁判や当局の見解はなお揺れており、現状では、ややフェアユース否定の判断が目立つ状況です。

なお、侵害認定数の多さゆえに史上最大規模の賠償額も予想されたアンソロピック訴訟は8月に電撃的な和解合意が公表されています(和解額は非公表で、正式には裁判所による和解条件の承認をもって発効)。創作者・権利者側には、この和解合意も大きな勝利ととらえる声があるようです。

とはいえ、まだ地裁レベル、高裁レベルでの攻防が続いており、著作権局の「希釈化論」など、現実に生成AIの大量学習により権利者が市場で打撃を受けることを重視するかをめぐって、最終的な帰趨は読めない状況ですね。

●日本で大手メディアの提訴が相次ぐ

──日本の大手メディアも裁判を起こしています。

読売に続いて、朝日・日経も8月にパープレキシティ社を提訴しましたが、著作権に関して、基本的な争点は共通すると考えられます。

日本の著作権法30条の4は、AI学習を一定範囲で許容していますが、「表現された思想・感情の享受を目的とする場合」や「著作権者の利益を不当に害する場合」は複製を認めていません。

したがって、今後の争点としては、

(1)パープレキシティによる記事の要約が学習元の記事の創作的表現を再現しているか
(2)創作的表現の再現がなくても無断学習によって市場での代替物が生まれ元記事がクリックされなくなること(ノークリックサーチ)により、新聞社の利益が不当に害されたと言えるか

が中心になると予想します。

後者は、訴訟に先立つ文化審議会でも議論され、米国の「希釈化論」と共通する部分があります。両国の裁判争点は本質的に似ていますが、実は2010年代半ばに日本の政府委員会で議論が始まっていたため、日本のほうが先行していたとも言えます。

さらに朝日・日経訴訟では、引用元として記事を示しながら、実際には異なる要約を表示した点を「不正競争行為」などとして請求の原因に加えており、この点の判断も注目です。もちろん、日本の裁判所がすべての請求について管轄権があるのかも問われます。

●日米で判断が分かれる可能性も

──米国と日本で真逆の判断が積み上がることもありえますか。

可能性はあります。そして生成AIの多くは、米国やEUなど国外で開発・学習されているため、そちらの動向が「本丸」であることは間違いありません。

ただし、日本のコンテンツや国内サービスに関しては、日本の法律が準拠法とされ、侵害とされれば、生成AI企業側に巨額の賠償が命じられるリスクがあります。

また、国際的なハーモナイゼーション(OECDなど)の議論も見逃せませんが、特にトランプ外交下では十分に機能するか不透明です。

●「AI戦略」の視点は欠かせない

──メディア企業やクリエイターはこうした過渡期にどう対応すべきでしょうか。

裁判や立法のゆくえを注視するのは当然ですが、言われ尽くしたようにICT(情報通信技術)の世界の1年は他分野の10年に相当するとされます(マウスイヤー)。状況をただ注視していては、その間にゲームチェンジで取り残されるため、「走りながら考える」姿勢が鉄則ですね。各国、各団体、各個人が「自分のAI戦略」を持ち、常に考え続けることに尽きようかと思います。

ちょうど、この質問に答える最中にも、パープレキシティ社が、報道機関や出版社への収益還元プランを発表しました。それによれば、記事が学習・引用・クリックされた場合、ユーザー料金の一部(Perplexity Proであれば月額20ドルのうちの4ドル)を、参加した報道機関に分配する仕組みです。

大量かつ定型的な利用は、個別の交渉は非現実的なので、利用規約的に画一的な一括処理が取られます。その仕組みは、権利者側が主導して構築する「JASRAC型」と、プラットフォーム側が主導する「YouTubeコンテンツID型」に分けられるでしょう。

一般的には、仕組みを作ったほうが、しばしば圧倒的に有利です。プラットフォームが関与する場合には「YouTubeコンテンツID型」が多くなりますが、権利者側が集中管理でまとまっている場合には「JASRAC型」との複合モデルもありえます。

したがって、メディア側も、こうした動きに乗るのか、逆に自ら仕組みを構築して主導権を握るのか。訴訟と並行して、「AI戦略」の視点は欠かせないと思います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

福井 健策
福井 健策(ふくい けんさく)弁護士 骨董通り法律事務所
骨董通り法律事務所 代表 弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院・iU ほか 客員教授。専門はエンタテインメント法。内閣府知財本部・文化審議会ほか委員。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「エンタテインメント法実務」(編著・弘文堂)、「インターネットビジネスの著作権とルール(第2版)」(編著・CRIC)など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。X:@fukuikensaku

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