江藤拓農林水産相が、5月18日、佐賀市内の自民党政治資金パーティーで「支援者からたくさんコメをもらうので買ったことがない」「家に売るほどある」と発言したことが問題となっています。
SNSでは「国民がコメの値上がりで苦しんでいる時に、国民感情を逆なでする」「私には関係ないということか」などと反発を招いています。
19日に行われた参院決算委員会で江藤氏は「配慮が足りず不適切だった」と釈明し、発言を撤回しています。
石破茂首相は5月19日、江藤農水相の発言について「極めて問題だ」と強く批判し、官邸で事情聴取を行う意向を示しました。
支援者から「売る」ほどコメを贈られたのが事実だとすれば、賄賂にあたる可能性もありそうです。どのような場合に賄賂と判断されるのでしょうか。簡単に解説します。
●刑法上の「収賄罪」とは?
「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受」した場合に、収賄罪が成立します(単純収賄罪、5年以下の懲役)。問題は、「職務に関し」「賄賂」といえるか、です。
まず「職務に関し」という言葉からは、その公務員が具体的に権限を行使できる職務に関することに限られそうにも思えます。しかし、判例はこの要件をもっと広く解釈しています。
判例は、一般的・抽象的な職務権限に属するものであっても、「職務に関し」といえるとしていますし(最判昭和37年5月29日など)、形式的な職務とはいえないような場合でも、職務に密接に関連する行為であれば、「職務に関し」といえると考えています。(最判昭和31年7月12日など)
たとえば、地裁判例ですが、東京藝大の教授が、指導中の学生に対し、特定の楽器店が保有するヴァイオリンを購入するよう助言したことが、職務に密接に関連する行為と判断されたケースなどもあります(東京地判昭和60年4月8日)。
本件では具体的な事情が分かりませんが、どういう趣旨で支援者からコメを送られたのかという事情によっては、「職務に関し」といえる可能性が出てきます。
●「賄賂」とは?
次に、「賄賂」について検討してみます。
「賄賂」とは、職務行為の対価であって、有形無形を問わず、人の需要・欲望を満たす一切の利益を含むと言われています。(大判明治43年12月19日)
接待や性的な行為を提供することも賄賂にあたるとした判例があるくらいですから(最判昭和36年1月13日)、コメは「一切の利益」にあたるでしょう。
なお、社交儀礼の範囲内で送られる物については、賄賂にはあたらないとされていますが、その範囲はなかなか微妙です。
争いはありますが、判例は「職務に関し」て受け取られたものであれば、利益を交付した時期や、利益の大小にかかわらず賄賂となると考えているようです(大判昭和4年12月4日)。
たしかに、お中元やお見舞いなど一般的に贈答されるような社交儀礼は賄賂性が否定されますが、それは職務行為との対価性がないからだと考えられています。(※賄賂性が否定される理論的な理由付けについては諸説あります)
●今回のケースでは
朝日新聞の報道(5月19日)によれば、江藤農水相は、「支援者の方々がたくさんコメを下さるので。売るほどある、家の食品庫には」と発言したということです。
この発言内容が真実であれば、相当に大量のコメを送られていたことになります。
今後、誰から、どのような趣旨で、具体的にどのくらいの量のコメを、どれくらいの期間送られたのか、などが明らかになってくるかもしれません。そのような事情によっては、収賄罪が成立する可能性もあります。
●さらに重い規定も
最初に挙げた「単純収賄罪」は、賄賂罪の規定の中では最も基本的な規定です。
これに加えて「請託(せいたく)を受けた」、つまり職務に関するお願いをされて承諾したときは、「受託収賄罪」(197条1項後段。7年以下の懲役)になりますし、さらにこれによって不正な行為をしたりすれば、もっと重い「加重収賄罪」(197条の3第1項。1年以上の懲役)となります。
賄賂罪にはこのほかにも様々な処罰規定があります。現時点(5月20日15時時点)で江藤農水相に収賄の疑いがあるとはいえませんが、かなり紛らわしい発言であったことは否めないように思います。
※5月20日17時 一部誤字を修正しました