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演劇界のセクハラ撲滅の旗手・馬奈木弁護士から「セクハラ」受けた依頼人が提訴、何度も呼び出され「性的関係要求された」
会見した知乃さん(2023年3月3日、弁護士ドットコム撮影)

演劇界のセクハラ撲滅の旗手・馬奈木弁護士から「セクハラ」受けた依頼人が提訴、何度も呼び出され「性的関係要求された」

演劇や映画界のハラスメント撲滅活動で知られる馬奈木厳太郎弁護士に、代理人という立場を悪用した性行為の強要をされたなどとして、依頼人だった女性が3月2日、馬奈木弁護士を相手取り、慰謝料1100万円を求めて東京地裁に提訴した。

原告は、劇団の座長をつとめる舞台俳優の知乃さん(25歳)。2017年には演出家から受けたセクハラを実名で告発し、演劇界「#Metoo」運動として注目を集めた。演劇界や映画、芸能界のハラスメント撲滅の活動をする中で、馬奈木弁護士と知り合い、自らの訴訟の代理人を依頼していた。

訴状によると、馬奈木弁護士は2019年9月ごろから2022年1月まで、観劇や裁判の打合せと称して、原告を頻繁に呼び出し、断続的に身体を触ったり、性的な言葉を伝えるなどのセクハラをおこない、性的関係まで要求していたという。

20歳も年上で、演劇界の権威でもある馬奈木弁護士に対して、原告は不愉快に思いながらも強く拒絶できなかった。馬奈木弁護士は2022年1月にも、原告の意思に反して性行為をおこなったという。

原告の知乃さんは3月3日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開き、「ずっと不愉快でしたし、怒っています。馬奈木氏には、弁護士として一生仕事してほしくないです」と語った。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「上下関係、相手の弱みにつけ込むハラスメント」

訴状によると、馬奈木弁護士が演劇界の重鎮とも親しく、ハラスメントを撲滅する活動をしていたことから、原告は、馬奈木弁護士を信頼し、自身の訴訟の代理人も依頼していた。

原告側は、馬奈木弁護士が演劇界の制作現場でハラスメント講習もおこなってきた「権威」であるとして、「加害行為は長期間にわたり、代理人弁護士という優越的な地位を利用する悪質さ、何度も断ったにもかかわらず性的関係を迫り、最終的に応じさせた精神的苦痛は甚大」と主張している。

この日の会見で、原告代理人である嶋﨑量弁護士は「演劇界という狭い世界で、頼れるはずだった弁護士に裏切られたのは、あってはならないこと。同じ弁護士として許し難い行為です」と厳しく批判した。

同じく原告代理人の佐藤倫子弁護士は「暴行・脅迫がなくとも、上下関係や当事者の弱みにつけ込む形で性交を強要する、典型的なエントラップメント型のハラスメントです」と指摘した。

また、原告側は馬奈木弁護士に対して、懲戒請求をおこなっていることも明らかにした。

●「裁判の打ち合わせ」と称して飲食店に呼び出し

訴状によると、原告側が訴えている主な加害行為は次の通り(編集部注:具体的なハラスメントの描写がありますので、お読みになる際にはご注意ください)。

2021年9月、原告が馬奈木弁護士に民事訴訟の代理人を依頼してから、馬奈木弁護士は原告を観劇に誘うことが増え、同年11月から12月にかけては月8回ほどのペースになっていた。観劇は主に夜で、終演後は関係者と食事することが多く、深夜まで馬奈木弁護士に拘束されることがほとんどだったという。

そのころに同乗したタクシーの中で、馬奈木弁護士が手を握ってきたため、原告は困惑して離そうとしたが、馬奈木弁護士は手を握り続けたという。

2021年10月には、原告の劇団で馬奈木弁護士がハラスメント講習会を開催。その懇親会の席において、テーブルの下で馬奈木弁護士は原告の足を触ってきた。原告は不快に感じつつ、他の人が気づくのではないかと気になり、食事する気持ちになれなかったという。

また同月、馬奈木弁護士は「裁判の打ち合わせ」という名目で、原告を頻繁に呼び出し、会おうとした。観劇前になることもあり、拘束時間が長く、原告の負担が大きかったが、「必要な打ち合わせ」と言われて断れなかった。馬奈木弁護士の事務所で打ち合わせしたことは1回しかなく、カフェやレストラン、居酒屋などでおこなわれたという。

さらに同月、「本番終わったら温泉も行く?」などと露骨に性的な誘いもしてきたという。

原告は「行かない〜!!笑!」などと冗談めかした返信をしていたが、内心は非常に不快であり、非公開のツイッターで「下心がほんっっっっっっとに一瞬でも見え隠れするとヴッって気持ち悪くて死んでしまう」などと本心を吐露している。その後も、同様に「たすけて」「悔しくて怖くて怖くてずっと泣いてる」などと書き残している。

●「60万円くらい払うよ。月にいくらほしいの」

訴状によると、馬奈木弁護士の呼び出しと身体接触はエスカレートしていったという。

同年11月には、原告の名前を呼び捨てし、観劇中や打ち合わせ中であっても、足を触るなどした。さらには、原告に対し、「あなた一人くらい養えるよ」「60万円くらい払うよ。月にいくらほしいの」などと、いわゆる「愛人契約」を持ちかけることもあったという。

原告は、適切な距離を保ちたいと考え、同年12月には「昼間なら空いている」と機嫌を損ねないようにしながら、馬奈木弁護士の夜間呼び出しを避けようとした。

しかし、馬奈木弁護士は「困ったな」「和解案をどうするか相談したいんだよね」などと裁判を理由にして、原告が断りづらいような返信をしていたという。

同年12月23日には、面談の予定がなかったにもかかわらず突然、馬奈木弁護士は原告に「どこにいるのか?」と尋ね、東京・青山のカフェに原告を呼び出した。裁判の話はなく、店を出ると馬奈木弁護士は原告に路上でキスをしてきたという。突然のことで、原告は拒むこともできず、精神的な苦痛を覚えたが、仕事を理由にしてその場から逃げた。

同年12月末になると、馬奈木弁護士は、原告に対して「入浴中の写真を送ってもいいよ」など、性的なLINEを送るようになっていった。原告はこの時点も、馬奈木弁護士がハラスメント撲滅活動や自身の訴訟に影響があることから、苦痛に感じていても、強く拒否できなかったという。

●性的関係を断っても受け入れられず

馬奈木弁護士は、2022年正月も、原告に「会いたい」と誘い続け、断わりきれなかった原告は1月4日に東京・新宿のカフェで会った。そこで原告は、「体を触ったりすることはやめてほしい」と伝えたが、馬奈木弁護士は意に介さなかったという。

その後、LINEでも原告は性的な誘いを断ったが、馬奈木弁護士は不機嫌になり、原告を困惑させた。

代理人や活動顧問の仕事を続けてほしいと考えていた原告は、馬奈木弁護士をなだめるLINEを送っていたが、馬奈木弁護士は「今度連絡してくるときは、日帰り旅行に行って一緒にお風呂に入るくらいの気持ちになったらだね」などと返信した。原告は、性的関係を持たなければ、馬奈木弁護士の機嫌がなおらないという不安を深めた。

馬奈木弁護士は2022年1月22日、26日、27日、29日と原告を呼び出した。原告の負担は大きく、29日は食事せずに帰宅すると、馬奈木弁護士は「裁判も反訴とかしなくていいんじゃない?」などと原告にLINEを送り、ハラスメント撲滅活動からも手を引くことをほのめかした。

原告は馬奈木弁護士の怒りを解かなければと思い、謝罪のために面会したいと告げた。すると、「次、二人きりであったら、押し倒しそうだよ」などと露骨な性的な誘いをしたという。原告は、性的関係を断っていたが、馬奈木弁護士は受け入れなかった。

その後、原告は応じなければ仕事をやめるという圧力に屈して、2022年1月31日、意に反した性行為に応じざるをえなくなったという。

精神的苦痛の大きかった原告がその後、性的関係を断ると、馬奈木弁護士は原告を責めるLINEを送った。加害行為は、恐怖を覚えた原告が2022年2月7日、馬奈木弁護士を解任するまで続いたという。

馬奈木弁護士は3月1日、原告に対してセクハラをおこなっていたと認めて、謝罪する文章を公表した。

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