PC遠隔操作事件の片山祐輔被告人の保釈が取り消された5月20日、主任弁護人をつとめる佐藤博史弁護士は、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。その後半を紹介する。
●自作自演メールの計画は「保釈前から」
――今回の(真犯人メールに使った)スマートフォンは、どうやって入手したのか?
(SIMカードは)秋葉原で手に入れたと言っていた。まったく足のつかないものを買った、と。
――なぜ河川敷にスマートフォンを埋めたのか?
彼が法廷に臨んでいるときに発信させる目的だったからだ。発信した基地局がわかるので、別の場所でなければいけなかった。警察が自宅に捜索に入るということや、スマホの回収も考えないといけないので、河川敷になった。
――メール送信の詳しい方法は聞いているか?
名前は聞いていないが、スマートフォンにソフトをインストールしたと言っていた。
――「自作自演のメール」を送ることを考えた時期は?
保釈される前から考えていたと言っていた。保釈後、与えられた以外の秘密のパソコンを持っていて、それでメールを作り続けていた。
――片山被告人は最後までだまし続けるつもりだったのか?
有罪判決に備えて、収監後にメールが届く設定をしておくというのが、元々の計画だったと言っていた。最後までだますつもりだったんだろう。
●今から話すと、マンガみたいな話
――保釈後、捜査当局から行動確認されることについて、佐藤弁護士は注意をしたのか?
行動確認はされているよ、と伝えた。今から話すとマンガみたいな話だが、真犯人からのメールがやがて届くと、この事件は「サドンデス」になると話していた。そのときに向けて万全の体制もとっていた。本当は、われわれにとって「デス」だったわけだが・・・。
だけど、彼の真意はまったく違った。逆に言うと、彼は、私たち以上に尾行とかを計算していたと思う。
――それならば、なぜ?
河川敷に下見に行ったときも、ものすごく警戒していたが、誰もいない安全な場所だと考えたようだ。(捜査陣が)スマートフォンを掘り返したのはたぶん、埋めた直後ではない。真犯人メールが届いたから、片山の行動を振り返ってみようということで、真相が明らかになったのだと思う。すばらしい勘だ。
――スマホを河川敷に埋めた以外に、「自作自演」したとは言っていないのか? たとえば落合洋司弁護士に何かが送られたり・・・。
「あれはまったく自分ではない」と。まったく無関係だと思う。
――検察側の立証と、片山さんが今回話された真実と違うところはあるか?
(遠隔操作に使用されたプログラムの)iesys(アイシス)を作ったのが、乙社のパソコンであるというのも、「そうだ」と言っていた。アイシスをつくるくらいの技術はあったんだと。
――パソコンの遠隔操作など細かいことはやるが、肝心なところで感覚が鈍いというか、ぬけているという面はあったか?
ものすごく子どもっぽいと言うべきだと思う。母親を安心させるために「真犯人メール」を送って、裁判を「ジ・エンド」に導くという考えは、ちょっとどこかがぬけている。
――サイバー犯罪に一石を投じた今回の事件を、どう考えるか?
彼はリアルな空間である江ノ島に姿を現して、尻尾を捕まえられたわけだ。今回もスマホを埋めたところを地道な捜査官が目撃して、掘り当てたために見つかった。
片山さんは、江ノ島に行ったときに「まさか防犯カメラがあるとは思わなかった」という。どう考えても、マンガみたいな弁解で、予想しろよと言いたくなるが・・・。
サイバー空間で行動していた間は尻尾を捕まえられなかった。サイバー空間の犯罪には、まだ残念ながら有効な手立てはない。
●彼に触れることは、たぶんない
――保釈金はどうなる?
1000万円は母親が出した。生活のための蓄えだから、彼はすごく気にしていた。
彼には「没収されないようにするけど、おそらく今回の証拠隠滅は破格の行為なので、保釈金の召し上げがない、ということは考えられない」と伝えた。彼はすごく悔いていた。そこにも考えが及ばないというか、後悔先に立たずというやつだ。
――最後の最後に、佐藤さんのところに連絡がきたということについては?
私は片山さんの無実をずっと信じていた。片山さんとしても、私に電話するのは、ずいぶん勇気がいったと思う。叱られるんじゃないかということも含めて、最後の別れのつもりで電話をかけてきている。だけど、私はさっき言ったように、片山さんをそのまま受け止めることができた。
こうなった以上は取り調べの可視化は求めないで、起訴後の取り調べに応じる。片山さんにもそういう必要なことはやろうと伝えた。捜査機関を翻弄したわけだから。捜査側としても、どこで捕まえ損ねたかという問題が多分あると思う。そういうことについて、片山さん自身が協力すべきだ、と。
――別れるときに声をかけたのか?
「お別れだよ」って、握手した。彼に触れることは、たぶんないので。