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まん延防止で酒類提供停止「告示改正は違法の疑いがある」京大・曽我部教授
厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館(千和 / PIXTA)

まん延防止で酒類提供停止「告示改正は違法の疑いがある」京大・曽我部教授

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が4月25日、発令された。今年1月以来3度目のことだ。

対象の地域は、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県で、期間は5月11日までの17日間。酒類やカラオケ設備を提供する飲食店などに休業を、酒類提供のない飲食店には20時までの時短営業を要請するとともに、不要不急の外出自粛などを呼びかけている。

一方で、まん延防止等重点措置も、4月30日時点、宮城、神奈川、埼玉、千葉、愛知、愛媛、沖縄の7県で引き続き実施されている。岐阜県と三重県がすでに、政府に対して適用を要請しており、今後も対象区域が拡大する可能性がある。

厚生労働省は4月23日、重点措置下でも飲食店などに酒類やカラオケ設備の提供停止を要請したり命令できるよう、告示を改正した。すでに、埼玉、神奈川、千葉では、重点措置に基づく酒類やカラオケ設備の提供を停止するよう要請している。

●法改正ではなく告示改正で実現に懸念

緊急事態宣言時でしかできなかった要請・命令を重点措置下でもできるように、法改正ではなく告示改正で実現したことについては、懸念の声があがっている。

コロナ禍を多角的に調査・検証している「コロナ禍検証プロジェクト」(事務局:NPO法人日本公共利益研究所/プロジェクト主宰:楊井人文弁護士)は4月29日、ウェブページで「告示改正は違法の疑いがある」とする京都大学の曽我部真裕教授(憲法学)のコメントを公表した。

曽我部教授は、「カラオケ店でカラオケ装置を使用禁止とする、あるいは居酒屋で酒類提供禁止をするというのは、事実上は営業停止であるとも言いうる」としたうえで、「政令・告示で定めることのできない措置を定めている疑いがある」としている。

以下では、「コロナ禍検証プロジェクト」の承諾を得て、同ウェブページで掲載された曽我部教授のコメント全文を紹介する。

●曽我部真裕教授のコメント全文

曽我部真裕教授(2019年10月/弁護士ドットコム撮影)

まず、飲食店については、被害者的側面と加害者的側面の両面があることが、その営業規制(具体的には休業から時短、各種の感染防止措置の陽性まで様々)の合理性評価を難しいものになっていると感じます。

つまり、飲食店での飲食が感染を拡大する一因となっているとしても(加害者的側面)、その第1次的責任は陽性者である客にあり、店舗自体は場を提供しているのみで、感染をさせているわけではなく、営業規制はその意味では「とばっちり」という面があります(被害者的側面)。

また、マクロ的観点からは、飲食店の営業規制によって感染を抑制する効果は見込めると思われるのに対し、個々の店舗への規制が具体的にどのように感染抑制に結びついているかが見えにくい点があります。

以上のような前提はあるものの、マクロ的観点から、営業規制によって感染抑制する効果があるのであれば、一定の規制は憲法上も許されると考えます。ただし、規制の強度が上がるほど、他に代替的な規制はないのかが厳しく問われることになります。

もう1つの論点は、具体的な営業規制は、法律(新型インフルエンザ対策特別特措法)及びその委任を受けた政令、さらにその委任を受けた厚労大臣の告示で定められるため、委任の範囲を超えているかどうか、というものです。

酒類提供禁止に関しては、ひとまずはこの委任の範囲内かどうかということが問題となります。

この点に関しては、まん延防止等重点措置(以下「重点措置」)でも、知事が酒類提供やカラオケ機器使用を禁止する命令を出せるよう、厚生労働省が4月23日、告示を改正していた点については、違法の疑いがあると考えます。

すなわち、特措法31条の6は、「重点措置」として取りうるものとして、「営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置」と定めていますが、「営業時間の変更」が例示の筆頭に上がっていることなどから、それ以上の措置はとれない(政令・告示で定めることができない)ことになります。

こうした解釈は、立法過程でも共有されていたところです(この趣旨は、衆参の附帯決議にも示されています)。

しかし、カラオケ店でカラオケ装置を使用禁止とする、あるいは居酒屋で酒類提供禁止をするというのは、事実上は営業停止であるとも言いうるため、政令・告示で定めることのできない措置を定めている疑いがあると考えられます。

事実上の営業停止という強力な規制であるだけに、委任の範囲は限定的に解釈しなければならないというのは、最高裁判例からも伺えるところです。

また、このことは、現在の状況では、こうした措置によって閉店に追い込まれるおそれがある点からもそう言えます。

他方、緊急事態において取りうる措置に関する法45条2項との関係では、事実上の営業停止であっても直ちには違法ではないと思われますが、比例原則との関係は問題になります。

その点、今回の緊急事態宣言における戦略の全体像がどのようなもので、酒類提供禁止等といった個別の措置がその中にどう位置づけられる、どう必要なのか、説得力のある説明がなされていないことが非常に問題だと感じます。

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