刑事事件の裏側に見た障害者の姿 福祉との接点をつなぐ挑戦 浦﨑寛泰弁護士インタビュー

PandA法律事務所(東京都千代田区)の弁護士・社会福祉士、浦﨑寛泰氏は、 一般社団法人東京TSネットを立ち上げ、障害者支援を行っている。 東京TSネットでは、浦﨑氏などの弁護士や福祉専門職、医師などが連携し、 累犯障害者問題や家族の問題に取り組んでいる。 資金もなく手弁当からスタートしたその活動について、東京TSネット代表理事の浦﨑氏に話を伺った。(弁護士ドットコムタイムズ<旧・月刊弁護士ドットコム>Vol.16<2017年1月発行>社会正義に生きる 弁護士列伝No.14より)

不合理な「敵」との出会い 触法障害者を支える活動


「世の中には弁護士の力だけで立ち向かえない敵がたくさんいます。この敵というのは社会の不合理のことです。ですが、敵に会うというのは幸せかもしれない。自分の立ち向かうべきテーマに出会えるということですから」

新たに弁護士としての第一歩を踏み出した69期の先生に向けて、なにかメッセージは?と伺ったところ、このような言葉をいただいた。PandA法律事務所の弁護士、浦﨑寛泰氏はまさにこの「社会の不合理という名の『敵』」に立ち向かっている。浦﨑氏が現在、力を注いでいるのがトラブルに巻き込まれた障害のある人たちの支援活動だ。

「被疑者被告人で、福祉の支援が必要な人の支援をするネットワーク、一般社団法人東京TSネットを立ち上げて活動しています。具体的には、障害を持つ被疑者とソーシャルワーカーなどの福祉を繋ぐ活動を行っています」

きっかけは刑事事件を多く手掛けていた時期に出会った多くの光景だった。

「離島での活動などを経て千葉の法テラスに赴任しました。千葉は刑事事件が多いんですね。その中でかなりの被疑者被告人が、家族または本人に障害がある、ないしは疑いがあった。犯した事件は事実であったとしても、ただ罰するだけではなにも変わらない。また、家族に障害があって犯行に及んでしまった場合、執行猶予となったとしても家族のもとに戻ったら、その家庭をどうするのかといった問題も抱えています。なぜ犯罪を起こすような生活になったのか。今後は大丈夫なのか。この部分に踏み込もうとすると、弁護士ができる範囲を超えてしまうんです。そこで、福祉の力を借りていく必要性を感じました」

刑事事件を数多く手掛けていく中で、弁護士である自分と福祉の専門家との協力活動は、必要に迫られて行うようになった。

「千葉では幸運にも熱心な支援者たちと出会うことができたんです。その後、独立して東京に移ってきたわけですが、東京には弁護士の先生方がたくさんいますし、そのなかには福祉を知らない先生方もたくさんいる。福祉の支援が必要な自分の被告人・被疑者たちを、どうやって福祉と繋げるかを研究しようと思って、この東京TSネットを始めたんです」

少しずつ見られた社会の変化 問題は民事・家事にも潜んでいる


東京TSネットを始めた段階では完全なボランティア。苦しい船出だった。それでも強い意志と信念のもとに活動を続けていった。

「あるとき、前科17犯で傷害致死で捕まった被疑者の弁護を引き受けたんです。この裁判の中で精神鑑定を行ったところ、知的障害が見つかったんです。彼は40代だったのですが、前科17犯ということは、これまで17回の刑事手続きを経てきたわけです。でも、知的障害には誰も気がついていなかった。僕自身、普通に会話もできるし、まさか知的障害があるとは思わなかったんです。障害があることが分からなければ、福祉の支援を受けるという発想にも至りませんし、実際にそれまで福祉サービスにつながっていませんでした。過去の裁判でも、きっとこういうケースは多くあったのではないかと思うんです」

浦﨑氏たちは、定期的な勉強会をスタートした。回を重ねていくごとに、関心を持つ弁護士やソーシャルワーカーの参加者も増えていった。また、弁護士会でも社会福祉士会と連携したり、日弁連も取り組みを始めた。弁護士界隈を見渡したとき、この数年で障害者支援に関心を持つ風潮が、少しずつ強まってきた。

「山本譲司氏が著作『獄窓期』(ポプラ社/2003年)で、刑務所にはそういう問題のある人が多いと指摘しました。そこから厚労省が研究したり、再犯防止で法務省も取り組みを始めたりしています。弁護士は大阪のように熱心な地域もありましたが、全体としてはここ1〜2年ですね。私たちは民間団体としてネットワーク作ろうと、公的な活動とは別に、民間レベルで進めています」

当初はボランティア・ベースで進めていた活動も、最近では講演活動などで資金を作り、活動に充てられるようになってきた。弁護士会の積み金制度も始まった。

「この問題は刑事事件だけではないんですね。たとえば離婚、債務整理、交通事故など、民事事件や家事事件のなかにも、依頼者や被害者が福祉と繋がらなければならない領域は山のようにあると思うんです。離婚案件として受けた際、福祉的なアプローチを行って、一緒に役所に行ってサポートをするような活動ができれば良いケースはたくさんあって、そういう領域でつないでいけるように活動していきたいと思っています」

弁護人とソーシャルワーカーを連携し、相乗効果を生み出す。しかし、浦﨑氏の挑戦には困難も伴う。

「刑事弁護人は福祉と連携して浮かび上がった事実を有利に使いたいわけですよね。『施設に入れますので釈放後も安心です』といったように、具体的で、ある程度監視が効く方が、裁判官や検察官への説得力が違う。ですが、福祉の本来の考え方は違うんです。本人のやりたいことに寄り添っていく活動になる。ですからトライアンドエラー、まずやってみて合うのか合わないのかを見てみるといった活動も必要になる。弁護士の視点と福祉の視点のすり合わせ、これも今後の課題です」

自身が目にした社会の不合理。この大きな敵に立ち向かうため、自身の足と知恵、仲間とのネットワークを駆使して、今後も活動を続けていく。
Profile∣弁護士・社会福祉士 浦﨑寛泰氏
2003年司法試験合格。東京弁護士会に弁護士登録後、長崎県弁護士会に登録替えし、法テラス壱岐法律事務所初代所長に就任。離島での活動後、法テラス千葉法律事務所初代所長などを経て2014年PandA法律事務所を開設。2015年一般社団法人東京TSネット設立。「精神保健福祉の法律相談ハンドブック」など著書多数。

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