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牛久の収容者と面会続けて「四半世紀」 田中喜美子さんが見た 「普通じゃない」入管の実態
「牛久入管収容所問題を考える会」代表の田中喜美子さん(塚田恭子撮影)

牛久の収容者と面会続けて「四半世紀」 田中喜美子さんが見た 「普通じゃない」入管の実態

入管法に違反したとされる外国人を自国へ送還するための収容所として、1993年12月24日に開所した茨城県牛久市の「東日本入国管理センター」(牛久入管)。この場所で1995年から収容者への面会活動を続けているのが、「牛久入管収容所問題を考える会」(牛久の会・つくば市)代表の田中喜美子さんだ。

入管問題を取材する多くの新聞記者やジャーナリストが田中さんを訪ねるのは、四半世紀にわたって、週に一度、牛久入管の収容者と向き合ってきた田中さんに、収容所の状況や当事者の生の声を聞かせてもらいたいからだろう。

いわば、牛久入管の状況を定点観測してきた田中さんに活動を始めた経緯や収容者の現状、そして面会を通じて見えてきた日本社会の課題などを聞いた。(取材・文/塚田恭子)

●きっかけは東京の支援団体を送迎し始めたことだった

1993年の暮れも押し迫る時期に開所した牛久入管。田中さんによると、当時、収容者に面会に来ていたのは、主に教会関係者や、東京で外国人を支援していたグループだったという。

「それ以前から地元では、牛久に収容施設ができることへの反対運動がありました。知人がその運動に関わっていたことから、私も集会に参加していたんです。残念ながら施設は建ちましたが。

開所後、東京で外国人の支援活動している人たちが面会に来ていましたが、駅から牛久入管までのタクシー代は当時でも片道2700円ほどかかり、東京からの電車賃も含めると大変な金額になります。じゃあ、地元の団体として、駅から牛久入管まで送迎を手伝うことにしたんです」

東京の支援団体が牛久に来るのは月二度ほどだったが、ただ彼らを送迎して待っているだけでは「おもしろくない」。そう思って、同行させてもらったのが、田中さんの面会活動の始まりだった。

「当時から超過滞在(オーバーステイ)の人はたくさんいました。出稼ぎの人も多い一方で、非常に難民性の高い人もいました。人権団体の『救援連絡センター』を通じて外国人刑事弁護団に依頼され、最初に面会したのは、祖国で反政府活動に関わっていたイラン人でした。

収容所の中にいる人たちは横のつながりがあるので、面会した人から"この人にも会ってほしい"と相談を受け、トルコ国籍のクルド人、中国の天安門事件関連の人やビルマの人たちなど、面会者は増えていきました。

今、多く収容されているのはアフリカ系の人です。とても難民性の高い人が、成田空港で拘束されて上陸できず、退去強制令書が出て、空港の入管支局から牛久に移送されるなど、非常に気の毒で問題なケースがあります」

●「どうしても帰国できない理由がある」

面会時、電話や録音機器の携帯は認められないものの、筆記具を持ち込むことはできる。田中さんはまず収容者の体調を確認したうえで、話を聞きながらメモを取り、彼らの状況などを正確に把握することに努めているという。

「牛久には、難民性の高い人が収容されています。政治的、宗教的な問題など、理由はさまざまですが、長期収容されても退去に応じない人には、どうあっても帰国できない理由があるんです。

超過滞在中に日本人と結婚して、新しい家族ができている人、無国籍の人、労災にあって補償が得られるまで待っている人。こうした人たちが長期収容されていることは非常に問題だと思います」

宗教団体によるミッショナリー(伝道活動)とは異なり、「牛久の会」では面会にあたって特にルールはなく、活動は参加者個人の意思に委ねられている。

「私自身は、継続して同じ人に会うようにしています。その人がなぜ超過滞在になったのか、何をしたことでここに収容されているのか、どうしてこれほど長く退去令を拒んでいるのか。面会の数を重ねてだんだん打ち解けて、信頼関係ができてくると、相手もいろいろ事情を話してくれるようになるからです。そうなると、こちらもできる限りのことをしようと。そんな感じですね」

過去に数例あったものの、田中さんは仮放免(一時的に収容施設から出る許可をもらうこと)申請者の「保証人」を引き受けることはなく、会のメンバーにも勧めていないという。

「牛久の会では、仮放免だけでなく、その後の住居の保証人になることも、自分の住所を連絡先として提供することも勧めません。保証人になるのは、自分の生活をかけるに等しい大変なことです。一人に応じれば、また別の人も・・・となるわけで、個人の篤志で活動している市民団体の会員にとって、それは荷が重すぎます。

年末年始に一斉の差し入れをしたり、面会を重ねている人に電話カードを差し入れしたり。多くの方々にカンパを呼びかけることはありますが、企業の支援を受けているわけでもない私たちは、金銭的な援助もほとんどしていません」

画像タイトル 「牛久入管収容所問題を考える会」代表の田中喜美子さん(塚田恭子撮影)

●2015年ごろから「長期収容」がはじまった

長期収容をやめること、仮放免の保証金の金額を下げること、収容者の医療の質を改善すること・・・。これまで収容者に代わって牛久入管側の担当者に多くの要望を伝えてきた田中さんは、入管が長期収容を推し進めた時期について、次のように話す。

「牛久で仮放免が出にくくなったのは、オリンピック開催を口実に適正な外国人とそうでない外国人などと選別を始めた2015年ごろからです。法務省は外国人対策として、摘発・送還を徹底する方針を立て、何らかの問題を見つけて、外国人を牛久に収容するようになりました。

その一方、人手不足で労働者が必要な産業分野には技能実習生や、2019年からは特定技能というビザを新たに設け、日本に入国させようとしています。最大の契機は、2018年2月に当時の入管局長、和田雅樹氏の指示で、全国の入管の施設長宛に勧告が出されたことでした。これ以降、仮放免の審査基準だけでなく、仮放免を認められた人たちの動態調査もかなり厳しくなっています」

動態調査とは、仮放免を認められた人たちが何をしているか、仕事はしていないか(※仮放免中に働くことは禁じられている)、届け出た住所に暮らしているかといったことを入管職員が調査すること。どこかに出かける際も、事前に届け出をしなければないように、彼らは入管の監視下に置かれている。

「この秋の臨時国会での提出は見送られましたが、来年の通常国会で、与党は退去強制拒否罪(送還忌避罪)、仮放免逃亡罪などを出してくるでしょう。外国人問題に関わっている弁護士や私たちのような市民団体も、送還忌避や逃亡をほう助していると言わんばかりの法案を提案してくる可能性もあります。

入管はかなりひどい状況を生み出すのではないか。そんな懸念はありますが、こちらとしては、それに抗して頑張らなきゃなというところです」

●「ふつうじゃ考えられないことがおこなわれている」

仮放免の審査条件が厳しくなり、長期収容者が増える中、収容所で起きた大きな事件の一つが、2019年のハンスト(ハンガーストライキ)だった。

「5月にイラン人が始めたハンストが牛久入管以外にも広がって、長崎県の大村入国管理センターでは餓死者まで出てしまいました。ただ、2019年ほど多くの人が長期にわたっておこなうことはなかったものの、それ以前にも収容者はハンストをおこなっています。なぜそこまでするのか。それは彼らにとって、収容は不本意なことだからです。

たとえば、何か法に触れることをしてしまい、刑務所に収監されている間にビザが切れる人、永住権を取り上げられてしまう人がいます。日本人であれば、刑期を終えれば、晴れて外に出られますが、刑期中にビザが切れてしまった外国人は、刑期を終えるとそのまま牛久での収容が継続されます。ふつうじゃ考えられないことです。

正規のビザを更新できず、超過滞在になった人たちが、人手不足の仕事場で働いていて摘発されても、”自分はただ働いているだけで悪いことはしていない”というのが彼らの実感なんです。

技能実習生として来日後、働きだした職場があまりにもひどい会社で逃げて、別のところで働いていて摘発された人、成田に上陸して難民申請したけれど、そのまま2年間収容されている人。こういう人たちはたくさんいますが、彼らには、法務省や入管のやり方は、理解も納得もできないわけです。

それでも日本は『全件収容主義』を取っているため、収容され、あくまで退去を拒めば、退去強制令書が出てしまう。大変なことだと思います」

全件収容主義とは、在留資格がない人や超過滞在者など、入管法に違反していれば、難民申請中といった個別の事情や、その人が逃げる可能性があるかどうかを考慮せずに収容してよいとする入管側の解釈を指す。

収容期間の上限が定められていないことを含め、こうした入管の態度が招いた長期収容は、収容者の人権を無視した行為といえる。これに対して、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」は、日本の入管収容は、国際人権法に違反しているという意見書をまとめている。

●「外国人の労働によって日本社会は回っている」

2019年に牛久入管で始まったハンストについては、マスメディアでも報道されていたので、耳目に触れた人も少なくないだろう。

届け出が義務化された翌年の2008年に約49万人だった外国人労働者の数は、2019年には約166万人と、10年あまりで3倍以上に増えている。それにもかかわらず、日本では、多くの人がすぐ隣にいる外国人の存在を見ていないようだと田中さんは指摘する。

「国は就労目的とわかっていながら、留学生を増やしてきました。学問を一生懸命やっている人ももちろんいるけれど、留学時にした借金を返済するために複数のバイトを抱え、授業中に居眠りしている人も少なくありません。でも、彼らの労働という下支えによって日本の社会は回っているんです。

この辺りの農産物直売所で売られている野菜をつくっているのも、技能実習生や特定活動ビザの人たちです。茨城県にしろ群馬県にしろ、彼らの労働によって農業は成り立っています。今治タオルも、メイド・イン・ジャパンのファッション・ブランドも、技能実習生が厳しい労働条件下でつくっていました。

日系ブラジル人、日系ペルー人たちも、バブル期には定住者ビザで呼び寄せられ、その後、リーマン・ショックで景気が悪くなったら解雇されて、また人手が足りなくなったからと、国はさまざまな優遇措置さえ設けて来日を促しています。

そして現在、コロナ禍の不況で仕事がなくなり、収入が途絶え、アパートや寮から放り出されている。みんな本当に、どうやって生きているのか。日本はよくよく考えなければいけないし、呼び寄せた側、つまり国や企業は責任を持って、彼らの生活を保証するべきだと思います」

●「外国人は見えない存在にされている」

166万人という数字が示すように、日本の多くの産業分野で外国人労働者が必要とされていることに疑いの余地はない。だが、事情はどうあれ、「現行法に違反しながら、この国にいる彼らに弁解の余地などない」と彼らを取り巻く状況や生きる権利に目を向けない人の声のほうが大きい。

残念ながら、それが日本の現実だ。

そんな中、入管の方針や対応に意を唱え続ける牛久の会の活動は、少なからぬ反発を受けているのではないか。だが、田中さんは、こちらの懸念に対してこう答える。

「はっきりいえば、反発や波風を感じるほど、私たちの運動は世間に届いていません。欧米では、その時々の社会や政治状況に応じて、外国人の保護や歓迎に流れることもあれば、今のように外国人を排斥しようという動きが高まることもある。それだけ外国人を受け入れてきた歴史があるということです。

でも、日本では、残念ながら外国人は見えない存在にされています。技能実習生はひどい労働環境から逃げても、結局、働かなければ生きていけないから、不利な条件を呑んで仕事を続けざるを得ません。

もちろんちゃんとしている人もいるけれど、日本の零細、中小企業の経営者が、昔と変わらず、外国人を安い労働力と思っていることが一番の問題です。労働の対価として報酬をきちんと払い、互いに人間同士としてちゃんと向き合わなければ、日本はますますダメになると思います」

●多くの収容者は心身ともに疲弊している

強制退去令に応じない人たちは長期収容する。入管の方針によって仮放免はなかなか出なくなり、収容がいつまで続くか、先の見えない状況下で、多くの収容者は心身ともに疲弊している。

同じ収容者に時間を置いて会えば、その多くは前回の面会時よりも疲労や諦念の色を濃くしている。そんな彼らと何を話せばよいか。面会をしたことがある人なら、少なからず考えることだろう。

この四半世紀、田中さんは収容者とどう向き合ってきたのか。

「まずは体調がどうか、何か変わったことはないかを尋ねます。知り合いに会いに来たという感じで、「今日は何を食べた?」「入管のこれはおいしくない」とか。結構つまらない話もしますね。難しい話をすることもあるけれど、中にいる人も、政治のこと、宗教のことばかり考えているわけじゃないですから。

6カ月も収容されていれば、精神的なダメージは大きく、多くの人が心の問題を抱えています。刑務所なら作業時間があり、対価として報酬もありますが、収容所ではそれもありません。作業や仕事を取り上げられ、ただ虚ろにテレビを見ていたら、人格が壊されてしまいます。手や頭、身体を使って人の役に立つこと、そういうすべての機会を奪われることは、人間にとって最悪のことなんです」

経営する喫茶店の定休日である水曜日、田中さんは午前7時20分に自宅を出て、隣町の牛久へ向かう。

「行きは途中で面会希望者を拾いながら、今日は誰に会ってどうしようかと、移動中に考えるけれど、牛久入管で聞いたことは、あまり家には持ち帰らないかな。つくば学園都市は、植栽や周囲の景色がとてもきれいなので、帰りはその風景を見ながら、心をマイナーチェンジしていきます。私もいい年なので、家に戻るとテレビを見ながら、明日のランチのメニューをどうするか考えているうちに、くたばって寝ていますね(笑)」

牛久の会では毎年この時期、「年間活動報告会&交流の集い」を開催している。今年の報告会は、12月13日(日)午後1時半から、つくば市・イノベーションプラザホールで開催される。外国人の人権問題に取り組む駒井知会弁護士による講演も予定されている。

・牛久入管収容問題を考える会 http://www011.upp.so-net.ne.jp/ushikunokai/

【プロフィール】田中喜美子(たなか・きみこ) 1952年茨城県つくば市生まれ。「牛久入管収容問題を考える会」代表。つくば市内で喫茶店を経営しながら、1995年から週に一度、東日本入国管理センターで収容者への面会を続け、収容者の人権を尊重するよう、ほかの団体とも連携しながら、入管に申し入れをおこなっている。2010年に東京弁護士会人権賞を受賞。

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