安倍内閣が掲げる成長戦略の一環として、法人税の実効税率の引き下げに向けた議論が進んでいる。政府税制調査会(政府税調)は、高収益企業の税負担をやわらげ、広く薄く、法人税の負担を求める構造にするとしている。
一方、自民党税制調査会(自民税調)は、法人税率を引き下げるためには代替財源が不可欠という立場で、野田毅会長は「(政府内で)前寄りか少し前広に議論が進んでいる」と、議論の動きをけん制しているようだ。
議論は12月に与党税制大綱としてまとめられ、最終的に来年の国会に提出される法案となるようだが・・・。この「政府税制調査会」と「自民党税制調査会」には、どんな違いがあるのだろうか。久乗哲税理士に聞いた。
●「中長期的」か「毎年」か
「『政府税制調査会』は、内閣にある審議会等の一つです。総理大臣から諮問を受けて、『中長期的な視点で』税制の審議を行い、答申をまとめるのが役割です。メンバーは、会長の中里実東京大学教授をはじめ、学者やエコノミスト等の有識者です」
一方の自民党の税制調査会が担っている役割は?
「自民党税制調査会のメンバーは政治家で、公明党の税制調査会とともに、『毎年の税制改正について』議論を行い、年末に『与党税制改正大綱』をまとめるのが主な役割です。これはその後、閣議決定され、法案となって次年度の国会に提出されます」
つまり、中長期的な議論を行う有識者会議の「政府税制調査会」と、毎年の法改正案を議論する「与党の税制調査会」という棲み分けがあるようだ。
●政権交代で変わった「税制調査会」の仕組み
「この税制調査会の役割は、政権交代に伴って、二転三転しています。
旧自民党政権時代、税制改正の主導権を実質的に握っていたのは自民党税制調査会で、特に『インナー』と呼ばれる非公式の幹部会が決定権を掌握していました。
しかし2009年に政権交代が起きて、民主党政権となりました。政治主導を掲げた鳩山内閣は『有識者の政府税調&政治家の党税調』という仕組みをやめ、財務大臣を会長する政治家による『政府税制調査会』に一本化しました。
民主党政権時代は、この政府税調が、税制改正の主導権を握っていました。しかし民主党政権で3番目の野田内閣になると、『民主党税制調査会』が復活しました」
2012年末、自民党が再び政権の座に返り咲いた。現在、政府税調と与党税調の関係はどうなっているのか?
「自公政権は2013年、民主党時代の『政府税制調査会』を廃止し、旧自民党時代のスタイルに戻しました。
つまり、政府税制調査会が大枠の方針をまとめ、『具体的な数字』については自民党税制調査会がまとめるという流れに戻っているのです。
そのため、自民党税制調査会が実質的に税制改正をコントロールしていた旧自民党時代に逆戻りしたとの批判もあります」
このように久乗税理士は話していた。
【取材協力税理士】
久乗 哲 (くのり・さとし)税理士
税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。
事務所名 :税理士法人りたっくす
事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/