整理解雇の要件
従業員を解雇するには、法律で定められた、次のような要件を満たす必要があります。
- 就業規則などで解雇の事由を明示している
- 解雇権の濫用にあたらない
- 解雇が禁止されている期間にあたらない
- 解雇をする30日前までに解雇の予告をする、または解雇予告手当を支払う
要件を満たしていない解雇は無効です。 解雇が無効の場合、解雇はそもそもなかったことになり、会社と従業員の雇用契約はずっと続いていたことになります。 会社は従業員に対して、「解雇されずに働いていれば、本来支払われるはずだった賃金」を支払う必要があります。 このような事態にならないために、どのような場合に解雇の要件を満たすのか、具体的に紹介します。
就業規則などで解雇の事由を明示している
会社が常時10人以上の従業員を雇う場合、就業規則には、「退職に関する事項」として、「従業員がどのような場合に解雇されるか」(解雇の事由)を載せておく必要があります。就業規則は、従業員がいつでもその内容を見られるようになっていることが必要です。 さらに、従業員と雇用契約を結ぶときには、解雇の事由を含めた労働条件について説明した書類を相手に渡すことも必要です。
労働条件について説明した書類を手渡す義務は、平成16年1月1日以降に結ばれた雇用契約に適用されます。それ以前に結ばれた雇用契約については、こうした書類が交付されていない場合があります。
就業規則や、雇用契約を結ぶときに渡した書類に書かれた解雇の事由にあてはまる事実がないのに、従業員を解雇することはできません。 就業規則や、雇用契約を結ぶときに渡した書類に、業績悪化や経営不振といった会社の事情が解雇の事由として記載されているか確認しましょう。 たとえば、次のような記載です。
- 「事業の運営上のやむを得ない事情または天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により、事業の継続が困難となったときは解雇する」
- 「事業の縮小等やむを得ない業務上の都合により必要性のあるときは解雇する」
すでにある就業規則に、業績悪化などの事情が解雇の事由として記載されていない場合は、記載したうえで、改めて労働基準監督署へ届け出なければなりません。
常時雇用する従業員が10人未満の会社には、就業規則の作成義務はありません。従業員の解雇を検討したい場合には、就業規則を作成して、周知することから始めましょう。
解雇権の濫用にあたらない
解雇が有効といえるためには、解雇権の濫用にあたらないことが必要です。 従業員を解雇することが、客観的にみて合理的ではなく、社会通念上、解雇が相当ではない場合は、「解雇権の濫用」にあたり、解雇は無効です。 整理解雇では、解雇が有効かどうかは、以下の4つの要件を満たしているかを基準に判断されています。要件を満たさない整理解雇は無効となる可能性があります。
要件 | 考慮されるポイント |
---|---|
人員削減の必要性 | 経営悪化や業績不振などの事情があるか |
解雇回避措置の実施 | 経費削減や賃金カット、希望退職者の募集などの措置を講じたか |
解雇対象者の選び方の妥当性 | 解雇対象者の選定基準が客観的で合理的か |
解雇手続きの妥当性 | 従業員や労働組合と十分に話し合ったか |
注意したいのは、4つの要件は法律で定められた内容ではなく、裁判例の積み重ねによってできあがった判断要素だということです。 整理解雇が有効かどうかの判断要素については、法律に明確な条文がなく、最高裁による判断もまだ示されていません(最高裁の判断は、先例として、そのほかの裁判でも判断の指針になります)。 要件を満たしているかどうかの判断も、裁判所によって温度差があり、「こうした事情があれば必ず整理解雇が有効になる・無効になる」と言い切ることはできないのが現状です。 会社としては4つの要件をなるべく広く満たすような対応をした方が、整理解雇が無効になる可能性を低くすることができます。 たとえば、整理解雇の前に希望退職者を募集することをおすすめします。 希望退職者の募集は、整理解雇の要件の1つである「解雇回避措置の実施」にあたります。 解雇回避措置には、経費削減・賃金カット・新規採用の停止などがあります。その中でも、希望退職者の募集をしたかどうかは、解雇回避措置が十分かを判断するうえでの重要なポイントだと考えられています。 裁判例では、希望退職者の募集をせずにいきなり解雇をしたケースについて、解雇回避措置が不十分だとして、解雇を無効とした事案があります。 これらの対応に加えて、整理解雇の要件を満たすことを証明する証拠を集めておきましょう。 たとえば経営状態の悪化を証明する場合には、会社の資産状況に関する資料といった、どのくらい経営が悪化していて、どの程度の人員削減が必要なのかが客観的にわかる証拠が必要です。 証拠が不十分だと、従業員から解雇の効力を争われた場合に、解雇の有効性を認めてもらうことが難しくなります。
解雇が禁止されている期間にあたらない
次の期間内に解雇することは法律で禁止されています。期間中の解雇は無効と判断されます。
- 仕事中のケガや仕事が原因で病気になった場合に、その療養のために休む期間と、その後30日間
- 産前産後休業の期間と、その後30日間
ただし、災害などやむを得ない事情によって、会社の事業を続けることが不可能な場合には、解雇禁止の適用を受けません。 また、従業員の仕事上のケガや病気について、会社が直接治療費などを支払ったり、労災保険を利用して補償を受けているケースで、療養から3年が経っても治らない場合は、会社がその従業員の平均賃金の1200日分を支払えば、解雇禁止のルールが適用されません(打切補償)。 打切補償を支払ったあとは、従業員に対して、労災保険による医療費の支払いや休業補償をしなくてもよくなります。 打切補償を支払わなくても従業員を解雇できる場合もあります。従業員が、ケガや病気の療養を始めてから3年が経った時点で、傷病補償年金の支払いを受けている場合か、その時点以降に傷病補償年金の支払いを受けることになった場合です。 傷病補償年金の支払いを受けていることは、打切補償の支払いを受けていることと同じと見なされます。そのため、会社は、打切補償を支払わなくても従業員を解雇できます。
従業員のケガや病気が通勤中に負ったものである場合は、解雇禁止の対象にはなりません。
解雇をする30日前までに解雇の予告をする、または解雇予告手当を支払う
従業員を解雇するときには、少なくとも30日以上前から、従業員に解雇することを通知しなければなりません(解雇予告)。 たとえば、3月31日付けで解雇する場合、会社は遅くとも3月1日には解雇予告をする必要があります。 解雇予告をした日の翌日からカウントして、実際に解雇する日までの日数が30日間に満たない場合、足りない日数分の平均賃金を従業員に支払わなければなりません。このお金を「解雇予告手当」といいます。 ただし、次のような従業員を解雇する場合は、解雇予告手当を支払う必要はありません。
- 14日未満の試用期間中に解雇された人
- 4か月以内の季節労働者で、その期間内に解雇された人
- 契約期間が2か月以内で、その期間内に解雇された人
- 雇用期間が1か月未満の日雇い労働者で、その期間内に解雇された人
また、次のような事情がある場合も、解雇予告手当を支払う必要はありません。
- 災害などで、会社の事業を続けることが不可能な場合で、労働基準監督署長の認定を受けた場合
- 犯罪行為など、明らかに従業員側に非がある解雇で、労働基準監督署長の認定を受けた場合
「会社の事業を続けることが不可能な場合」とは、事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合をいいます。
弁護士への相談を検討する
整理解雇を検討したい場合には、事前に弁護士に解雇のプロセスを相談することをおすすめします。
これまで説明したとおり、解雇をするには、様々な要件を満たす必要があり、要件を満たさない場合には無効となります。
無効な処分を行なった場合、従業員から、その処分がなければ支払われたはずの賃金の支払いを請求されるなど、トラブルに発展するリスクがあります。
解雇をめぐる争いが裁判に発展すると、決着がつくまでには時間もお金もかかります。裁判を起こされたことが社内外に伝わることで、会社の評判や採用活動によくない影響が出る可能性もあるでしょう。
解雇をする前に、弁護士に相談することを検討しましょう。弁護士に相談すると、解雇をめぐるトラブルを防ぐためのアドバイスを受けることができます。