【人事労務担当者向け】事業場外みなし労働時間制で働いている従業員から残業代を請求された場合に確認することと残業代の計算方法

従業員から未払いの残業代を支払うように請求された場合、従業員の勤務系形態を確認し、労働時間と残業時間を正確に把握して計算する必要があります。

  • 「事業場外みなし労働時間制」とはどのような働き方か
  • 残業代を請求された場合に確認するポイント
  • 残業代の計算方法

この記事では、事業場外みなし労働時間制で働いている従業員から残業代を請求された場合に確認するポイントを詳しく紹介します。

目次

  1. 事業場外みなし労働時間制とは
  2. まずは従業員の主張を確認する
  3. 会社が事業場外みなし労働時間制を導入できる条件を満たしていないと主張している場合
    1. 対象とならないケース
    2. 事業場外みなし労働時間制の条件に当てはまらない場合
  4. みなし労働時間が法定労働時間を超えているのに残業代が支払われていないと主張している場合
    1. 従業員が主張する労働時間に誤りがないか・勤務の実態はあったか
    2. 残業代を請求できる権利が時効で消滅していないか
  5. 事業場外みなし労働時間制でも残業代が発生する場合
    1. みなし労働時間が8時間以内に収まっている場合
    2. みなし労働時間を見直した結果、月の残業が45時間以上になる場合
    3. みなし労働時間が8時間を超えている場合
  6. 残業代の計算方法
    1. みなし労働時間が8時間を超える場合
    2. 深夜(22時〜5時)に働いた場合
    3. 「法定休日」に働いた場合
  7. 遅延損害金や付加金を請求される場合がある
    1. 遅延損害金
    2. 付加金
  8. 従業員との交渉は弁護士に依頼する

事業場外みなし労働時間制とは

「事業場外みなし労働時間制」とは、労働時間の全部または一部を事業場外で働いて、会社が労働時間を把握することが難しい場合に、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ会社が決めた時間(みなし労働時間)を働いたことにする働き方です。 外回りや出張などで会社の外で勤務することが多い営業職など、会社が労働時間を正確に把握することが難しい職種のための仕組みです。 本来、従業員の始業時刻と終業時刻は、「9時から17時」といったように、固定されていることが通常です。 始業時間と就業時間が決まっている働き方だと、原則として、1日8時間・週40時間(法定労働時間)を超える労働をした場合には、残業代が発生します。 一方で、事業場外みなし労働時間制は、労働時間を実際の労働時間ではなく、会社があらかじめ決めた「みなし労働時間」で計算します。 たとえば、みなし労働時間が「1日8時間」の場合、実際には6時間働いた日や10時間働いた日があったとしても、8時間働いたことになります。 実際の労働時間に関係なく労働時間が決まっているため、基本的に残業代は発生しません。 ただし、みなし労働時間が、法定労働時間の「8時間」を超えている場合は、8時間を超えている部分に対して、割増賃金が発生します。 たとえば、みなし労働時間が「1日10時間」の場合、法定労働時間(8時間)を超える2時間は残業時間になります。 この2時間には、月給を時給に換算した賃金(基礎時給)に、最低でも25%を上乗せした割増賃金が発生します。

まずは従業員の主張を確認する

事業場外みなし労働時間制で働く従業員から未払いの残業代を請求されたら、まずは、従業員が主張している内容を確認しましょう。 従業員の主張として、以下のような内容が考えられます。

  • 会社が事業場外みなし労働時間制を導入できる条件を満たしていないと主張している
  • みなし労働時間が法定労働時間を超えているのに残業代が支払われていないと主張している

会社が事業場外みなし労働時間制を導入できる条件を満たしていないと主張している場合

会社が事業外みなし労働時間制を導入できる条件を確認しましょう。 事業外みなし労働時間制を導入するためには、対象にする従業員が以下の条件を両方ともみたす必要があります。

・労働時間のうち、全部または一部の時間を、使用者が具体的に指揮・命令・監督することができない場所(社外)で働いている
・実際の労働時間を使用者が客観的に管理・把握できないため、労働時間を算定するのが難しい

対象とならないケース

単に会社の外で業務を行っているだけでは、必ずしもこれらの条件をみたすとは限りません。 たとえば、以下のように、社外で働いていても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合は、労働時間の算定が可能です。 そうした従業員を対象に事業場外みなし労働時間制を導入することはできません。

・何人かのグループで社外での業務を行う場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理者がいる
・社外での業務に従事しているが、携帯電話などで、随時使用者の指示を受けながら労働している
・訪問先や帰社時刻など、当日の社外での業務について具体的な指示を会社で受けてから、その指示通りに業務を行い、業務が終わってから、会社に戻る

事業場外みなし労働時間制の条件に当てはまらない場合

携帯電話やパソコンなどで、社外業務の進捗状況を上司に常に報告させているような場合、会社は従業員の労働時間を把握できるため、事業場外みなし労働時間制の条件に当てはまらない可能性があります。 導入できる条件をみたしていないのに、事業場外みなし労働時間制で勤務させていた場合、「固定残業代」などの名目で支払っていた残業代も含めて基本給として扱い、計算した残業代を請求される可能性があります。 たとえば、事業場外みなし労働時間制のもとで、25万円の基本給と15万円の残業代を支払っていた場合、事業場外みなし労働時間制が否定されると、25万円と15万円を合計した40万円を基本給として、固定時間制で働いていたと扱って、残業代を計算します。 固定時間制で残業代を計算する方法については、以下の記事から確認することができます。

みなし労働時間が法定労働時間を超えているのに残業代が支払われていないと主張している場合

残業代が支払われていないと主張されたら、以下のような点を確認しましょう。

  • 従業員が主張する労働時間に誤りがないか
  • 残業代を請求できる権利が時効で消滅していないか

これらのポイントを確認したうえで、残業代を支払う必要があると判断した場合、残業代が発生するケースや残業代の計算方法を確認しましょう。

従業員が主張する労働時間に誤りがないか・勤務の実態はあったか

まずは、従業員が主張する残業時間が、実際に発生しているのか、タイムカードなどをもとに確認しましょう。 そのうえで、勤務の実態がきちんとあったのかどうかを確認しましょう。 たとえば、単に残業代を得るために会社に居残っていただけような場合は、業務していたとは認められず、その時間の残業代は発生しない可能性があります。 裁判例では、タイムカードの打刻していた時間であっても、自分が経営にかかわっていた会社の準備に多くの時間をあてていたようなケースで、残業代は発生しないと判断されました。

残業代を請求できる権利が時効で消滅していないか

残業代を請求できる権利は、未払いの残業代が発生した時点から2年間が過ぎると、時効により消滅します。 具体的には、残業代を支払うべき給料日の翌日をスタート地点として、カウントを開始します。 2年前以上にさかのぼって残業代を請求していないかどうかを確認しましょう。

従業員が「内容証明郵便」を利用したり、審判や裁判を起こしたりして、残業代を請求すると、時効の期間は中断されます。時効が中断されると、未払いの残業代が発生してから2年間が過ぎていても、従業員が残業代を請求できる場合があります。

法改正により、2020年4月1日以降に発生した未払い残業代を請求する権利は、時効の期間が3年間に延長される予定です(将来的には5年間になる予定です)。

事業場外みなし労働時間制でも残業代が発生する場合

従業員が主張する労働時間に誤りがなく、残業代を請求できる権利も時効で消滅していない場合、残業代や割増賃金を計算することになります。 事業場外みなし労働時間制は、何時間働いても、みなし労働時間働いたと考える仕組みなので、原則として残業時間という概念がありません。 しかし、1日のみなし労働時間が、法定労働時間の8時間を超えている場合は、超えている部分について、残業代・割増賃金が発生します。 たとえば、みなし労働時間が「1日10時間」の場合、時間外労働にあたる2時間分は残業時間となります。 この2時間には、月給を時給に換算した賃金(基礎時給)に、最低でも25%を上乗せした割増賃金が発生します。 残業代を計算するために、まずは、従業員のみなし労働時間が8時間を超えているかどうかを確認しましょう。

みなし労働時間が8時間以内に収まっている場合

残業代は、従業員が法定労働時間(8時間)を超えて働いた場合に発生します。 そのため、みなし労働時間を法定労働時間の範囲内で設定している場合、従業員が実際には8時間以上働いていたとしても、残業代は発生しません。 しかし、みなし労働時間を超える勤務状況が継続的に発生しているような場合、これまで残業していた分の残業代・割増賃金の支払いが発生します。 また、従業員からみなし労働時間の見直しを求められる可能性もあります。 たとえば、みなし労働時間が8時間となっているのに、実際には、業務を終わらせるために常に10時間かかっているような場合です。 こうした場合、従業員から法定労働時間を超えて働いていた分の残業代・割増賃金の支払いを求めることがあります。 また、みなし労働時間よりも長時間働く状況が続いているような場合は、社内の労働組合や、従業員側の代表者から、労使協定の見直しなどを求められることが考えられます。 労働組合や従業員側の代表者と交渉して労使協定を見直し、みなし労働時間を10時間に変更するといった対応が必要です。 法定労働時間を超えて働いていた分の残業代・割増賃金の支払いを求められた場合や、交渉に不安がある場合は、弁護士に相談することを検討してもよいでしょう。

労使協定によって、みなし労働時間の設定が法定労働時間(1日8時間)を超える場合、会社は労働基準監督署に届け出る必要があります。

みなし労働時間を見直した結果、月の残業が45時間以上になる場合

みなし労働時間を見直した結果、月45時間を超える残業時間を組み込むことになるような場合、その労働時間の設定自体が違法と評価される可能性があります。

労使協定により、会社は臨時的に月45時間以上の残業時間を設定できる場合があります。詳しくは弁護士や労働基準監督署などに相談しましょう。

みなし労働時間が8時間を超えている場合

たとえば、みなし労働時間が10時間に設定されている場合、法定労働時間(8時間)を2時間超えていることになるので、従業員は2時間の残業を行なっていることになります。 この2時間には、月給を時給に換算した賃金(基礎時給)に、最低でも25%を上乗せした割増賃金が発生します。 しかし、法定労働時間を超えるみなし労働時間を設定している会社では、あらかじめ決まった額の残業代をセットにしていることが少なくありません。 基本給の他に、「みなし残業手当」や「固定残業代」といった名目で給与明細に記載していることが一般的です。 たとえば、「基本給20万円、固定残業代5万円」などと記載していることが考えられます。 まずは、月給を時給に換算した賃金(基礎時給)に、最低でも25%を上乗せした割増賃金が、固定残業代として支払っているかどうかを確認しましょう。

反対に、従業員が割り当てられた時間残業をしなかったとしても、残業代は満額発生します。

また、「固定」残業代という名前から、何時間残業しても残業代が一定額と考える人もいるかもしれませんが、そうではありません。 たとえば、深夜(22時〜5時)に働いた場合や、法定休日に働いた場合に別途残業代・割増賃金が発生します。 以下では、「固定残業代」の計算方法や、深夜・法定休日に働いた場合の残業代・割増賃金を、どのように計算するのかについて解説します。

残業代の計算方法

みなし労働時間が法定労働時間(8時間)を超えている場合、残業代・割増賃金が発生します。 この他にも、従業員が深夜(22時〜5時)に働いたり、「法定休日」に働いたりした場合も、残業代・割増賃金が発生します。 それぞれ、どのように計算すればよいのか、簡単な例を紹介します。

時給の計算方法や休日の考え方など、残業代を計算するために確認が必要な点がいくつかありますが、固定残業における残業代をイメージしてもらうために、ここでは詳細は省いて解説します。

みなし労働時間が8時間を超える場合

みなし労働時間が、法定労働時間(8時間)を超える場合、超えている部分は時間外労働となるので、超えた部分の時間に別途残業代が発生します。 具体的には、超えた部分の時間に対して、基本給とは別に、時間外労働した場合の割増賃金率(25%以上)を時給に上乗せした割増賃金が生じます。 たとえば、以下のようなケースで計算してみましょう。

  • みなし労働時間は10時間
  • 月給から換算した時給は1000円
  • 時間外労働の割増賃金率は25%
  • 月の出勤日数は22日

この場合、法定労働時間(8時間)に対して通常必要時間(10時間)が2時間上回っているので、2時間分の割増賃金が別途発生します。具体的な計算式は以下のようになります。 2時間 × 1000円 × 1.25 = 2500円 法定労働時間を超えた2時間に対し、2500円の割増賃金が発生します。月の出勤日数は22日になので、1か月の割増賃金は、以下のように計算します。 2500円 × 22日 = 5万5000円 このようなケースで、基本給とは別に支払われる固定残業代が5万5000円を下回っている場合、下回っている分を支払わなければなりません。

深夜(22時〜5時)に働いた場合

従業員が深夜(22時〜5時)に働いた場合は、働いた時間に対して、時給に深夜労働した場合の割増賃金率(25%以上)をかけた割増賃金が発生します。 たとえば、以下のように、1時間の深夜残業をした日を例に、残業代を計算してみましょう。

  • みなし労働時間は10時間 *固定残業代は月5万5000円
  • 1か月間に深夜残業を9時間行なった
  • 月給から換算した時給は1000円
  • 深夜労働の割増賃金率は25%

深夜に労働した場合、固定残業代に上乗せする形で、深夜労働の割増分について別途賃金が発生します。具体的な計算式は以下のようになります。 9時間 × 1000円 × 0.25 = 2250円 固定残業代(5万5000円)とは別に、深夜労働に対する割増賃金が2250円支払わなければなりません。

「法定休日」に働いた場合

労働基準法では、会社は、最低でも1週間に1回、または、4週間に4回以上の休みを従業員に与えるよう定めています(法定休日)。 多くの会社で週休2日制を採用していますが、法律で定めれられた休日(法定休日)は週1日であり、残り1日は会社が定めた「所定休日」です。 法定休日の曜日は、就業規則や雇用契約書を確認しましょう。 記載がない場合、土日が休みの会社であれば、日曜日を法定休日としていることが多いです。 従業員が法定休日に労働した場合、法定休日に労働した場合の割増賃金率(35%以上)を基礎時給に上乗せした割増賃金が、通常必要時間に対して生じます。 法定休日に出勤した場合の割増賃金について、以下のようなケースで計算してみましょう。

  • 通常必要時間は10時間
  • 固定残業代は月5万5000円
  • 日曜日が法定休日になっている
  • 日曜日に4時間働いた
  • 月給から換算した時給は1000円
  • 法定休日に働いた場合の割増賃金率は35%

計算式は以下のようになります。 4時間 × 1000円 × 1.35 = 5400円 固定残業時間には、法定休日の労働時間を含むことができません。 労使協定により、固定残業代があらかじめ給与に含まれている場合でも、法定休日に働いた場合は、別途残業代・割増賃金がフルに発生します。

一方、会社が定める法定休日以外の休日(所定休日)に従業員が働いた場合は、残業代・割増賃金は別途発生しません。

遅延損害金や付加金を請求される場合がある

未払い残業代を請求された場合、残業代に加え「遅延損害金」や「付加金」も請求される可能性があります。

遅延損害金

「遅延損害金」は、残業代の支払いが遅れたことに対する賠償金です。残業代を支払うべき日の翌日から発生します。 在職中の従業員から請求された場合、一般の企業であれば、年利6%で計算することになります。医療法人や学校法人、財団法人など、営利法人以外の場合の年利は5%です。 以下のようなケースを例に、遅延損害金を計算してみます。

  • 未払いの残業代は10万円
  • 未払いの期間は3か月(91日間)
  • 年利は6%

10万円 × 0.06 ÷ 365 × 91 = 1495円

法改正により、2020年4月から年利が3%に引き下げられ、3年ごとに利率が見直されます。

すでに従業員が退職している場合は、年利が14.6%になります。

付加金

残業代請求が、裁判にまで発展して、裁判所から未払い残業代の支払いを命じられた場合、残業代と一緒に「付加金」というお金を支払うよう命じられる場合があります。 付加金の額は裁判所が判断しますが、最大で残業代と同額になる可能性もあります。 交渉段階で、付加金を支払うことになるケースはまれです。

従業員との交渉は弁護士に依頼する

そもそも未払いの残業代が発生していないと考えていたり、金額が高すぎると考えたりしている場合は、支払いの有無や金額をめぐって従業員と交渉することになります。 従業員が弁護士に交渉を依頼している場合は、従業員側の弁護士と交渉することになります。 弁護士との交渉には専門的な知識が求められます。 労働法などの知識に不安があり、会社にが相談できる顧問弁護士などもいないような場合は、交渉を代わりに行ってくれる弁護士を探し、依頼することをおすすめします。

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