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循環取引については、「循環取引に該当するのか否か」という形式論よりも、実態として何を意図してそのようなスキームを組んでいるのかという点が重要になります。
循環取引をしようとする動機には、実態を伴わない売り上げの増加(売上高の水増し)をすることが考えられます。
上記の取引の不自然さは、A社とB社の取引にあります。なぜなら、B社に「工場内での組込み作業」(「ア業務」という)と「客先での現地組込み作業」(「イ業務」という)の2つを請け負わせているにもかかわらず、B社からA社がイ業務を請け負っている点が不自然なわけです。最初から、A社はB社にア業務だけを請け負わせればよかったはずだからです。
循環取引の動機には「短期的にお金を調達する」と言う動機もありますが、上記のスキームでは、客先からA社が資金を得られる以上、あまり資金調達の動機づけはありません(場合によっては、支払いサイトが長くてB社から短期資金を調達するためにそのようなスキームを採っている可能性もあります。)。
今回の上記のケースは、A社は、客先から「ア業務」と「イ業務」を請け負い、さらに、B社からさらに「イ業務」を請け負うということになるので、「イ業務」の売り上げがダブルで計上されるという点で売り上げをよく見せるという意味合いを持ちます。その意味では架空の売り上げを計上する循環取引の亜種といえるでしょう。
循環取引をしている際の社会的罰則ですが、具体的な循環取引の内容や実態にもよるので、上記の単純化した図式だけでは何とも言えないところはありますが、以下の3つの観点から罰が与えられることがあります。
(1)刑事責任
循環取引によって売上高を水増ししている上場企業は、有価証券届出書に虚偽の記載をしていることになるので証券取引法・金融商品取引法違反の刑事責任が問題になります。また具体的な態様によっては、詐欺、業務上横領、背任、特別背任、私文書偽造などの罪が伴う場合もあります。
(2)民事責任
上記の取引を行った取締役や担当者については、企業からの損害賠償請求をされることが考えられます。B社をあえて間に挟むことによって、本来払う必要のなかった請負代金を支払窊ざるを得ないことになるからです。株主からの金融商品取引法に基づく有価証券報告書虚偽記載者への損害賠償請求等も考えられるところです。