賃貸住宅を退去する際に、壁紙とクッションフロアの張り替え代5万円を要求されたが、国交省の原状回復をめぐるガイドラインを無視した金額だと伝えると、大幅に値段が下がったーー。そんなツイートが話題になった。
投稿主はこの住宅に5年間住んでいた。不動産業者から合計5万円を要求された際に、ガイドラインで壁紙とクッションフロアの耐用年数が6年と定められていることを理由に、負担額は、残り1年分の額であることを主張したところ、不動産業者から「ご存知でしたか?!」と言われ、金額がいきなり6分の1になったそうだ。
投稿主は、「無知では毟り取られる世の中」と語っているが、この原状回復の仕組みとはどういうものだろうか。また、ガイドラインはどのような場面で役に立つのだろうか。弁護士に聞いた。
●法的拘束力はないが、交渉の材料として利用できる
「建物の賃貸借契約においては、契約が終了したら、賃借人がその建物(部屋)を『原状に回復して』退去する必要があるとされているのが通常で、この場合、賃借人(借主)は、原状回復のための費用を負担することになります(原状回復義務)。
建設省(現国土交通省)は、従来からの裁判所の判断などを考慮して、『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を取りまとめました。賃借人は、原則として、通常の使用をしても発生すると考えられる建物の損耗・毀損(経年変化・通常損耗)についての原状回復義務はなく、賃借人の落ち度による損耗・毀損についてのみ原状回復義務を負うとしました(ただし、特約があれば、賃借人が経年変化・通常損耗分についても原状回復義務を負う場合があります)。
そして、賃借人は、原状回復義務を負う場合でも、経年変化・通常損耗分は既に賃料として支払ってきているから、建物や設備によっては、その経過年数が多いほど賃借人の費用の負担の割合を減少させるべきとされました」
今回のケースで出てきたクッションフロアや壁紙はどうなのか。
「クッションフロアや壁紙は、6年で価値が1円になるような負担の割合とすべきと考えられています(ただし、設備によっては経過年数を考慮しないものもあります)。つまり、5年経過していれば、賃借人の負担割合はほぼ6分の1ということになります。
このガイドラインは、あくまで一般的な基準であり、法的拘束力を持つものではありませんが、従来からの裁判所の考え方などに沿ったもので、現在も、裁判所などはおおむねこのガイドラインに沿って判断をしています。ですから、退去の際に不動産業者や賃貸人との原状回復費用負担についての交渉の材料として十分に利用できます」