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「入管の要請で、不法就労の捜査に協力したら、自分まで逮捕された」派遣会社社長が主張、 おとり捜査か?
大阪出入国在留管理局(sutton1977/PIXTA)

「入管の要請で、不法就労の捜査に協力したら、自分まで逮捕された」派遣会社社長が主張、 おとり捜査か?

不法滞在者を一網打尽にしたいと、入管から要請されて、ベトナム人を採用したら、自分まで逮捕された――。

技能実習先から逃げ出したベトナム人の不法就労を手助けしたとして、兵庫県の人材派遣会社社長が6月3日、出入国管理法違反(不法就労助長)の疑いで県警に逮捕された。この事件で、社長側がこのように主張しているのだ。

もし、入管からの要請が本当にあったとしたら、違法な「おとり捜査」にあたるのではないだろうか。

●不法在留状態になっていたベトナム人7人を県内の工場に派遣した疑い

兵庫県警組織犯罪対策課によると、逮捕されたのは、兵庫県尼崎市の人材派遣会社社長、ソニンバヤル(通称:五十嵐一)さんら、中国籍の2人だ。

逮捕容疑は、2018年4月〜9月、不法在留状態になっていたベトナム人7人を兵庫県内の携帯電話の部品製造工場に派遣していたというもの。

しかし、社長の弁護人が6月4日、兵庫県内で記者会見を開いて「社長の行為は違法性がない」「逮捕は不当だ」と訴えた。逮捕から2日後の6月5日、社長は釈放された。

●「しかるべきタイミングで一網打尽にしたい、と要請があった」

社長側が主張する事件のあらましはこうだ。

2018年6月初旬ごろ、ベトナム人10人が、社長が経営する人材派遣会社に応募してきた。あまりに人数が多く、いずれも「定住者」の在留カードを持っていたため、社長は不審に感じた。

そこで、ベトナム人たちの在留カードのコピーを大阪入国管理局に提出して、調べてもらうことにした。すると、在留カードはすべて偽造であることがわかった。

その際、入管の担当者が「応募を断っても他社に就職するだけで、違法行為の根絶につながらない」「しかるべきタイミングで一網打尽にしたい」として、積極的に採用するよう要請してきた。追加採用で、ベトナム人は31人になっていた。

その後も、社長らは入管側と打ち合わせ繰り返して、2018年9月、ベトナム人をマイクロバスとワゴン車に乗せて工場に運ぶとき、県警の検問に偶然あったことを装って、31人全員を逮捕させた。

●入管「一般論として、そんな指示することはない」

大阪出入国在留管理局の広報担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に、一般論と断ったうえで、「入管当局としては不法就労の事実が明らかな外国人について、雇用を継続するよう指示することはない」とコメントした。

だが、もし今回の事件の経緯が、社長側が主張するようなものだったとすると、「おとり捜査」にあたるようにも思える。外国人の労働問題にくわしい指宿昭一弁護士に聞いた。

●指宿弁護士「もし本当なら、おとり捜査にあたる」

「入管が不法就労を継続するように指示したとすれば、『おとり捜査』にあたります。しかも、積極的に犯罪行為をおこなうことを指示しており、捜査方法として不適法であると思います。

捜査機関が働きかけて、犯罪をおこなわせる『犯意誘発型』のおとり捜査を適法とした最高裁判例はありますが、今回のようなケースまでもが許されるとは思いません。

また、不法就労を取り締まるべき入管が不法就労を生み出しているのであり、これを指示した入管職員には不法就労助長罪が成立すると思います。

さらに、捜査協力者である人材派遣会社社長を逮捕してしまったことは、ずさんとしか言いようがありません。今後、経営者たちは、入管からこのようなおとり捜査への協力を求められても、絶対に応じないほうがいいと思います」

プロフィール

指宿 昭一
指宿 昭一(いぶすき しょういち)弁護士 暁法律事務所
労働組合活動に長く関わり、労働事件(労働者側)と入管事件を専門的に取り扱っている。日本労働弁護団常任幹事。外国人研修生の労働者性を認めた三和サービス事件、精神疾患のある労働者への使用者の配慮義務を認めた日本ヒューレット・パッカード事件、歩合給の計算において残業代等を控除することは労基法37条違反かどうかが争われている国際自動車事件などを担当。

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