刑事訴訟法第239条第2項の解釈について

 解釈
 刑事訴訟法第239条第2項には下記のように書かれています。
「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」
これは「国家公務員と地方公務員は、その職務中に犯罪と思われるものを発見した際(または犯罪行為が行われたのではないかと思った時)は、必ず捜査機関に告発しなければならない。」という意味なのでしょうか?

 質問
・上の規定には罰則等は設けられているのでしょうか?
・告発とありますが、これは告発状の作成、あるいは検察官又は司法警察員に口頭で告発することが上記の場合、常に義務付けられているということなのでしょうか?(たとえば素人目にもまず受理されないであろうと思うような軽微な犯罪の際や、犯罪行為が行われたのだろうとは思うが起訴できるような証拠が見当たらないような案件等であっても作成は必須ですか?)


第二百三十九条  何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
○2  官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
エリスルさん
2013年09月10日 23時28分

みんなの回答

鐘ケ江 啓司
鐘ケ江 啓司 弁護士
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同条の解釈については,安富潔『刑事訴訟法』(三省堂,2009年発行)の76頁によると,
「告発義務については訓示規定とする説(青柳・上339頁)も見られ,同旨の下級審判例(略)もあるが,通説は義務規定と解し,その違反は国家公務員法82条1項2号,地方公務員法29条1項2号の懲戒事由にあたるとしている。
もっとも,義務規定であると解しても,公務員の職務上相当と考えられる程度の裁量まで禁止するものではない。告発を行うことが,当該公務員の属する行政機関にとってその行政目的の達成に重大な支障を生じ,そのためにもたらされる不利益が,告発をしないで当該犯罪が訴追されないことによる不利益より大きいと認められるような場合には,行政機関の判断によって,告発しないこととしても,この規定には違反しないものと解される。
公務員が告発義務を負うのは,職務を執行するに際し,その職務内容に関係のある犯罪を発見した場合に限られる。なお,公務員が職務上知り得た秘密に属する事項については,103条,144条との均衡上,告発の義務を負わないものと解される」とされています。

こういったことからすれば,そもそも訴追の対象にならないと判断されるようなことについてはあえて告発しなくても裁量の範囲でしょう。また,告発に書面の作成は不要です。

2013年09月11日 00時11分

鐘ケ江 啓司
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追記します。『大コンメンタール刑事訴訟法 第2版 4巻』(青林書院,2012年)の770頁では「告発の前提として,官公吏において,その職務を行うことにより,合理的根拠に基づき犯罪があると思慮されることが必要であり,具体的事案に即して官公吏が判断することになる。」とありますので,合理的な根拠がないのに「犯罪がある」と思っただけでは告発義務はないでしょう。

2013年09月11日 09時04分

エリスル さん (質問者)
 参考になります。
 そもそも同条はどのような理念の下に設けられたものなのでしょうか?

2013年09月12日 18時52分

鐘ケ江 啓司
鐘ケ江 啓司 弁護士
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『大コンメンタール刑事訴訟法 第2版 4巻』(青林書院,2012年)の769頁では「本条2項は,官公吏の告発義務を規定している。これは,刑事司法の適正な運用を図るために,各種行政機関に対し,刑事司法の運営について協力義務を課すとともに,告発に裏付けられた行政運営を行うことにより,その機能がより効果的に発揮されることを期待して設けられたものである」としています。

また,『条解刑事訴訟法(第4版)』(弘文堂,2009年)の466頁では「本項が,官吏または公吏に対する告発義務を課しているのは,行政が適正に行われるためには,各種行政機関が相互に協力して一体となって行政機能を発揮するのが重要であるところ,犯罪の捜査ないし公訴権の行使といった刑事に関する行政作用についても,その適正な運用を図るためには各種行政機関の協力が必要であることに加え,告発に裏付けられた行政運営を行うことにより,行政の機能がより効果的に発揮されることを期待する趣旨によるものである。」とされています。

要するに,行政機関同士の協力義務を定めた規定,ということのようです。

2013年09月13日 09時35分

エリスル さん (質問者)
 告発義務は訓示規定だとする下級審判例があるとのことですが、通説に関してはそれを支持する判例等は存在するのでしょうか?

2013年09月14日 00時24分

鐘ケ江 啓司
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例えば東京高裁平成14年12月10日判決(判例時報1815号95頁)は,偽造された登記済証が提出された場合の登記官の義務として,
「登記官は、偽造された登記済証を発見した場合、その背後にあると思料される有印公文書偽造・同行使、有印私文書偽造・同行使等の犯罪について、これを告発し、捜査機関による犯罪の究明を求めることが義務付けられているのであるから、申請人が当該犯罪に関与していないことが明らかであり、かつ、提出された登記済証が偽造されたものであることを速やかに申請人に知らせなければ申請人に多大な損害が発生することが明らかであるとの特段の事情がない限り、申請人又は代理人に対する告知よりも刑事上の告発義務の十分な履行を優先させる義務があるというべきである。したがって、登記申請書類の中に偽造文書が含まれていることを発見した場合、登記官は、特段の事情のない限り、法務省ないし法務局の内部的な手続を経た上で、所轄警察署への告発手続を行うとともに、当該犯罪事実の重要な証拠となる偽造書類の押収手続に備えて、これを行う捜査機関と連携をとりながら、却下決定までの処理を行うことになる。」
と,行政機関の告発義務について明確に法的義務であることを判示しています。

2013年09月14日 00時42分

エリスル さん (質問者)
 最高裁の判例等は存在しないのでしょうか?

2013年09月14日 08時27分

鐘ケ江 啓司
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私の知る限りでは最高裁の判例はありません。
また,先程引用した『大コンメンタール刑事訴訟法 第2版 4巻』(青林書院,2012年)は日本での刑事訴訟法の最新・最大の注釈書ですが,そこにも記載はなかったと思いますので,やはりないのだと考えます。

☆大コンメンタール刑事訴訟法【第二版】第4巻 (第189条~第246条)
http://www.seirin.co.jp/book/01563.html

2013年09月14日 12時09分

エリスル さん (質問者)
 例えばある公務員(A氏)の属する組織の長(B氏)が何らかの犯罪を犯しているのをA氏が知った場合、告発によりB氏が逮捕等されることはA氏の属する行政機関に大きな不利益をもたらすものだと思いますが、この場合はいかがでしょう?
 行政目的の達成という観点から見ると告発はやはりしなければならないのでしょうか?

2013年09月14日 13時55分

鐘ケ江 啓司
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その場合はB氏より上の立場の人間に進言すれば良いことでしょう。
前の回答で挙げた判例も,「登記官は、特段の事情のない限り、法務省ないし法務局の内部的な手続を経た上で、所轄警察署への告発手続を行うとともに」と,行政機関自身が,告発について内部的に判断した上で行うことを予定しています。

具体的な出来事であれば,事前に弁護士への面談相談をお勧めします。

2013年09月14日 23時08分

エリスル さん (質問者)
 勉強になります。
 例えば、取りあえず警察署に電話する、或いは警察署を尋ねて話をするなどして、刑事事件として扱う程の案件か否かを、警察に判断して貰った上で、告発を行うか否かを決めるということは法的に問題はありますか?

2013年09月19日 22時58分

鐘ケ江 啓司
鐘ケ江 啓司 弁護士
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ベストアンサー
ありがとう
申告者が公務員であれば,それ自体が公務員としての守秘義務に反する可能性があります。

公益通報者保護法では,公務員も対象にしていますので,下記のサイトを参考にされた上で態度を決定されるのが良いと思います。
公益通報者保護法上では,行政機関への通報を行おうとする場合は「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があること」が保護される要件とされています。


☆公益通報者保護制度ウェブサイト
http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/jobun.html
Q2 公益通報をした公務員も法の対象ですか?

公務員も法の対象です。

しかし、公務員については、国家公務員法等の公務員法制において、身分保障等が規定されています。

そのため、法(第7条)では、公務員の任命権者等に対し、公益通報を理由とした免職その他不利益な取扱いがなされないよう公務員法制を適用しなければならない旨規定しています。

なお、行政機関内部の職員からの通報処理等を適切に行うための参考とするため、内閣府では、「国の行政機関の通報処理ガイドライン(内部の職員等からの通報)」を公表しています。

2013年09月22日 01時58分

エリスル さん (質問者)
 勉強になります。
 公務員が捜査機関等に申告したことが守秘義務違反として裁かれたような判例等は存在するのでしょうか?

2013年09月22日 15時14分

この投稿は、2013年09月10日時点の情報です。
ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。

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