池の鯉を逃がす行為が器物損壊罪に問われる?刑法の禁ずる類推解釈には当たらない?

 池で飼われていた鯉を飼い主ではない者が故意に逃がした行為が、刑法の器物損壊罪に抵触するという判例があるようなのですが、これは刑法の禁ずる類推解釈にはならないのでしょうか?
 鯉は元気に逃げていったわけですから、鯉を殺傷した(壊した)とは到底評価できないでしょう。
 
 池を壊したので器物損壊、というのであればまだわかりますが。

刑法
(器物損壊等)
第二百六十一条  前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
2016年12月01日 22時30分

みんなの回答

石田 岳彦
石田 岳彦 弁護士
ありがとう
 「損壊」と認められるか否かは、加害対象となった物の通常の効用が害されたか否かで判断されます。
 池の鯉は観賞または愛玩用に飼われていたでしょうから、加害者が鯉を逃がすことによって、被害者にとって、観賞等の効用が失われたことになりますので、「損壊」となります。
 

2016年12月02日 11時36分

相談者
>「損壊」と認められるか否かは、加害対象となった物の通常の効用が害されたか否かで判断されます。
そのような解釈は「損壊」の辞書的な意味からは離れていると思うのですが、類推解釈にはあたらないんですか?

2016年12月03日 01時08分

石田 岳彦
石田 岳彦 弁護士
ありがとう
判例としてはこの程度であれば、罪刑法定主義には反しないと解しています。

 法律上の文言の定義を厳格にし過ぎると、法律を適用できない例外的な事態が多数発生し、社会的に問題のある脱法行為が野放しになる、脱法行為に合わせて条文を追加した結果、条文がやたらと長く、膨大な量になってしまう等の不都合が生じ得ます。
 そのため、法文上の文言にはある程度の抽象性を持たせ、裁判官が解釈により対応する余地を残す必要があります。
 他方で、それが行き過ぎると罪刑法定主義に反することになりかねません。
 バランスが重要ということかと思います。
 私見ですが、法律上の用語の解釈にあたっては、必ずしも辞書的な意味に拘束される必要は無いが、かけ離れ過ぎると問題というのが法律家の一般的認識というところでしょう。
 もっとも、どこまでが許容される範囲かについては、学者や実務家の間でも争いが生じます。

 

2016年12月05日 10時51分

相談者
 条文を読んで素人(正常な判断能力を有する一般人)が想像できない行為が犯罪として処罰されるとなると刑法の明確性の原則に反する事態だと思うのですが、この事例はアウトではないということですか?
 判例の他、通説もそのような考え方なのでしょうか?

2016年12月05日 23時45分

石田 岳彦
石田 岳彦 弁護士
ありがとう
 > 条文を読んで素人(正常な判断能力を有する一般人)が想像できない行為が犯罪として処罰されるとなると刑法の明確性の原則に反する事態だと思うのですが、 

 現実問題として、素人の方にも容易に判断がつくよう、一義的に文言を定義してしまうと多大な支障が生じるのは上記のとおりです。
 また、不法領得(窃盗、詐欺、強盗等)以外の方法で、他人の所有権を侵害する罪としての器物損壊罪の性質に着目すれば、所有物の利用を不可能又は困難にする行為全般を「損壊」と評価することに合理性があります。
 また、他人の飼っている動物を勝手に逃がす行為が違法であり、何らかの刑罰の対象となり得ることは素人の方でも認識は可能かと思います。

 「損壊」について「物質的に物の全部または一部を害し、または物の本来の効用を失わしめる行為」とする判例の解釈は、法律学者、実務家の間でも特に異論がないと思います。
 明確性の原則との関係で問題視されているという話は聞きません。
  
 
 

2016年12月06日 10時56分

相談者
 実務家の他、学者等からも特に批判はない解釈なんですか?

2016年12月10日 00時31分

石田 岳彦
石田 岳彦 弁護士
ありがとう
 そのように理解しています。
 

2016年12月12日 13時25分

相談者
以下のような意見を目にしたのですが、少数説にとどまっているのが現状なのでしょうか?
私のような素人が条文を目にした際の印象に合致する解釈であるように思うのですが。

>この解釈には、やや疑問がある。鯉を逃がすことは、「傷害」の言葉の可能な意味の範囲内にあるとはいえないのではないだろうか。
>「逃がす」ことをも、「傷害」という文理に含みうるかが問題であり、それはやはり、やや無理があるように思われる。
『法解釈入門』(有斐閣、2013年)37頁。島田聡一郎執筆箇所。

2016年12月12日 21時44分

石田 岳彦
石田 岳彦 弁護士
ありがとう
 通説は判例の見解を支持していると思います。
 
 また、刑法のコンメンタール(注釈書)を読んでいただければ分かるのですが、国語辞典的な知識では意味を特定し切れない文言は幾らでもありますし、解釈にあたり、「損壊」以上に学説の激しい対立のある文言も多くあります。

 

2016年12月13日 10時50分

相談者
 では、刑法の条文については、「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれる」とは思えないものも多い、そしてそれで問題ない、ということですか?

2016年12月15日 00時06分

石田 岳彦
石田 岳彦 弁護士
ありがとう
 一般の方にまで厳密に意味を特定できるような条文にするのはさすがに無理なので、処罰の対象となるかならないかが条文から常識的に読み取れれば足りるという趣旨です
 現行の刑法については、「わいせつ」の意義、判断基準等、明確性の原則との関係で、学説上、違憲性が争われているものもあるので、問題なしとはしませんが、「損壊」の意義については、まだ、判例・学説の間でコンセンサスができている方ではないかと個人的には考えます。

2016年12月15日 11時02分

この投稿は、2016年12月01日時点の情報です。
ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。

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