東京ミネルヴァ破産の背景と再発防止に向けた課題 被害対策弁護団団長 新里弁護士インタビュー

弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所は2020年6月、弁護士法人としては過去最大の51億円という負債を抱え、破産手続きの開始決定を受けた。7月には東京ミネルヴァが所属していた第一東京弁護士会が、懲戒処分に向けた手続きに着手。また、東京ミネルヴァの依頼者が全国数千人とみられることから、被害弁護団も設立された。弁護団団長の新里宏二弁護士に、今回の事案が発生した背景や、再発防止に向けた課題などを聞いた。(インタビュー:2020年8月4日 弁護士ドットコムタイムズVol.56<2020年9月発行>より)

そもそも業務を適切に行なっていたのか非常に疑わしい

ーー東京ミネルヴァの破産について、どう考えているか。


東京ミネルヴァの負債額が51億円で、そのうち30億円ほどが依頼者に対する過払い金の返還債務だと報道されています。本来は別途保管しなければならない預かり金が、広告費用などに流用されていたようですが、依頼者の権利を守るべき法律事務所としては、大変な異常事態だと考えています。

東京ミネルヴァについては、そもそも「業務を適切に行なっていたのか」という点も、非常に疑わしいと感じています。

債務整理には、任意整理や個人再生、自己破産といった手続きがあり、弁護士は依頼者の収入や債務の額などから最も適切な手続きを選びます。ところが被害者からの相談を聞いていると、東京ミネルヴァは、本来であれば破産を選ぶべき状況の依頼者に対しても、任意整理を選んでいたケースがあるようです。

また、「債権者から回収した過払い金の額が適正だったのか」という点も、調査が必要だと考えています。あまり裁判をやっていなかったようなので、早期に回収するため、債権者側と何らかの協定を結び、本来回収できる過払い金の額よりも少ない額しか回収していなかった可能性があります。

依頼者のために仕事をしたのではなく、金儲けの手段として債務整理を行っていたのではないか、徹底的に調査しなければならないと考えています。

ーー弁護団としてどのように対応するか


依頼者に返還するべき過払い金を流用したのであれば、損害賠償を請求することになるでしょう。弁護団は代理人として、依頼者と一緒に戦いたいと考えています。

ただ、東京ミネルヴァや代表弁護士に対する破産手続きが始まっているので、東京ミネルヴァとの非弁提携が疑われる広告会社に対して責任追及することになるかもしれません。また、預かり金を流用していたのであれば、東京ミネルヴァのお金を管理していた責任者も追及の対象になると思います。

もちろん、預かり金を経費として流用していたのであれば横領にあたります。横領や非弁提携があったのであれば、刑事事件として対応しなければなりません。東京ミネルヴァの破産管財人が刑事告発する可能性もあるでしょうが、弁護団としても独自に問題を追及した上で、刑事告発してもよいと考えています。

また、実際に正しい基準で過払い金が回収されていなかったのであれば、本来の支払いを免れている貸金業者がいることになります。簡単ではないでしょうが、その業者にどのように対応するかも課題になると思います。

弁護士の受給に対して供給過剰でないか注視が必要

東京ミネルヴァが入居するビルの入口(2020年7月17日撮影)

ーーなぜ今回の事案が発生したと考えるか


2006年1月の最高裁判決により、過払い金の返還請求が認められるようになりました。現在、ある程度、事務的な処理で過払い金の返還請求が可能になっています。

私は多くの弁護士が被害救済に携わることができるようになれば、と考えていましたが、過払い金の返還請求が容易になったことで、弁護士が金儲けするための手段になってしまったと感じています。これが非弁提携につながり、東京ミネルヴァのような悪質な事案が発生した背景の一つと考えています。

また、今回の事案もそうですが、最近は、60期代など比較的若い世代の弁護士が、非弁提携に陥いるケースが多いようです。

私は1981年に司法試験に合格しましたが、当時の年間合格者は500人ほどでした。ところが2006年に新司法試験制度が導入されたことに伴い、年間合格者が2000人を超えた年もありました。弁護士が急増したことで、弁護士にも「就職氷河期」がありました。

さらに、司法修習生に対して給付金が支給されない時期もあり(一部復活済み)、修習資金の貸与制を利用して、借金をする修習生がいました。加えて、奨学金でロースクールに通っていた学生もいたので、修習が終わった段階で、かなり多額の借金を抱えた修習生がいたのです。

この谷間世代の弁護士は、就職難も重なり、非弁提携という悪魔の囁きに耳を貸しやすいのかもしれません。弁護士一人一人がトラブルに悩む方の人権を守っていかなければなりませんが、そのためには経済的基盤が確立されていることが必要です。多額の借金を抱えながら、なかなか事務所に入れず、独立しても案件が少ない状況では、悪魔の囁きにのせられやすいのかもしれません。

日本弁護士連合会としても、研修などを通じて注意を促しているのでしょうが、まだ対応が不十分なのが実際なのかもしれません。

弁護士が増え始めた時期と、過払い金の返還請求が全国的に活発になりはじめた時期は重なります。しかし現在、過払い金案件は減っているので、過払い金に依存していた地方の弁護士の中には、経済的に厳しくなる人もでてくるでしょう。

司法試験の合格者は2012年の2102人をピークに徐々に減少し、近年では1500人程度になっています。人口減少社会に突入していく中で、弁護士の需要が広がり続けることはないかもしれません。弁護士の需要に対して供給過剰でないかを、注視していく必要があると考えています。

広告をどのように規制するか考える必要がある

事務所の入口に貼られた告示書(2020年7月17日撮影)

ーー今後も同様の事案が発生する可能性はあるか


過払い金返還請求の訴訟件数は2009年に14万件を超えたのがピークで、2018年には4万件を下回るようになりました。訴訟件数が減っていることは、過払い金返還請求の市場が小さくなっていることを意味するでしょう。

それにもかかわらず、東京ミネルヴァはテレビCMなどの広告活動を積極的に行い、全国で相談会を実施することで、大規模な集客を続けてきました。市場が小さくなっている中、新型コロナウイルスの感染拡大もあって相談会の実施が難しくなり、今回の事態が発覚したという背景もあるかもしれません。

東京ミネルヴァのように積極的な広告活動や相談会を行っている事務所があれば、同様に破綻する可能性があるでしょう。被害救済が必要な依頼者が相当数出てくるかもしれないので、適切に対応できなければ「何のために弁護士がいるのか」と、弁護士に対する社会的信頼が損なわれることになると思います。

ーー再発防止に向けてどのような取り組みが必要か


広告をどのように規制するかを考える必要があるかもしれません。事務所の収益などを基準にすれば、収益に占める標準的な広告料の割合が見えてくるはずです。

あまりにも広告料が突出している事務所があれば、今回のような事態が発生する可能性が考えられます。過度な広告は消費者を惑わせるとして、貸金業社に対する広告規制の必要性が弁護士業界で議論されたことがあります。同じように弁護士の広告についても議論する必要があるのかもしれません。

また、近年、業者から派遣された事務員が弁護士業務を行うなど、今までの非弁提携の範疇からは考えられなかった事案が発生し、刑事事件になった事例もあります。東京ミネルヴァは別途管理すべき預かり金を流用していたと報じられています。

これまでの事例を踏まえ、事務所やお金の管理のあり方についても、どのような規制が必要なのか、議論する必要があると思います。

新里宏二弁護士プロフィール
1952年岩手県出身。83年仙台弁護士会登録。10年〜11年仙台弁護士会会長に就任したほか、日本弁護士連合会の副会長や多重債務対策本部事務局長などを務める。現在、金融庁・多重債務問題及び消費者金融等に関する懇談会委員。著書に「武富士の闇を暴く」(共著、編集、同時代社)、「多重債務被害救済の実務」(共著、勁草書房)、「Q&A改正貸金業法・出資法・利息制限法 詳説」(共著、三省堂)などがある。

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