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ドラマでよく見る「おとり捜査」 日本でのルールはどうなっている?
日本の法律では、「おとり捜査」はOKなのか?

ドラマでよく見る「おとり捜査」 日本でのルールはどうなっている?

非合法の拳銃を購入しようとしたら、相手は捜査官だった!?――捜査員や協力者を「おとり」にして、ターゲットが犯罪を行うように仕向け、実行を確認したうえで現行犯逮捕する。こうした手法は、「おとり捜査」と呼ばれている。

ドラマや映画ではしょっちゅう見かける気がするが、相手を「罠にはめる」という側面もあるだけに、その適法性が、裁判の争点になることもある。

今年8月にも、1997年に銃刀法違反で有罪になったロシア人船員が、「拳銃を持っていたのは捜査協力者にそそのかされたからだ」として、再審請求を計画している――という報道があった。

この「おとり捜査」、日本の法律では、どのような扱いを受けているのだろうか。岩手弁護士会・刑事弁護委員会の委員をつとめる小笠原基也弁護士に聞いた。

●「おとり捜査」のためのルールは、日本では確立していない

「おとり捜査は日本でも『任意捜査の一環』として行われる場合があります。

たとえば、インターネットオークションで違法な薬物や銃器などが出品された場合に、入札者を装って落札して、犯人を突き止めていくようなケースです」

――おとり捜査に関するルールはどうなっている?

「おとり捜査がより広く使われているアメリカには、《もともと犯罪を犯すつもりではなかった人に、犯意を誘発させた場合は無罪、そうでなければ有罪》というルールがあります。

ところが日本には、おとり捜査を規定する明文はなく、学説上も実務上も、確定的なルールはありません」

――ということは、明確に認められているわけでもない?

「そうですね。おとり捜査があっても、犯人は無罪にも公訴権消滅にもならない……つまりおとり捜査は有効だとする最高裁の判例はあります。

しかし、この判例に対しては、学説上の批判が大きく、『場合によっては違法となり得る』という下級審の判断もあります。したがって、先例としては疑問があるといえます」

●「おとり捜査」は無限定には認められない

――アメリカのような運用基準がなくても大丈夫?

「おとり捜査は、無限定に認められるものではありません。やはり、何らかのルールは必要でしょう」

――たとえば、どんなルールが考えられる?

「一案ですが、おとり捜査を使うためには、少なくとも次の3つの基準をクリアしている必要があるでしょう。

(1)犯罪の害悪度が高いこと(重大性)

(2)おとり捜査を使わなくてはならない格別の事情があること(必要性)

(3)捜査手段が相応しいといえること(相当性)」

――その3つをクリアすれば合法とすべき?

「いいえ、この3点はあくまで前提です。

そのうえで、《全く犯意がなかった者に犯意を誘発させたような場合》は、公訴棄却(裁判打ち切り)とすべきでしょう。

また、《すでに犯意を形成している者に機会を提供するような場合》でも、捜査手段が著しく不法と言えるようなケースでは、同様に公訴棄却とすべきと考えます」

おとり捜査をめぐっては、今でも専門家たちの間でもこのような議論が交わされているところのようだ。今後、議論の方向性に注視していきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小笠原 基也
小笠原 基也(おがさわら もとや)弁護士 もりおか法律事務所
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会 委員

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