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妻が子どもを連れて「別居」してしまった!夫が子どもを連れ戻すにはどうすればいい?

妻が子どもを連れて「別居」してしまった!夫が子どもを連れ戻すにはどうすればいい?

「もうあの人とはやっていけない」。夫の浮気などが原因で、妻が離婚を決意するというのはよくある話だが、小さな子どもがいる場合に問題となるのが、夫と妻のどちらが「親権」をもつのかということだ。つまり、どちらが子どもを引き取るのかで、もめることが多い。

正式に離婚する前に、夫婦のどちらかが家を出て、別居することも少なくない。典型的なのは、妻が子どもを連れて実家に帰るというパターンだ。だが、夫のほうも「子育てを自分でしたい」と考えていて、子どもを連れ戻したいと思ったら、どうすればいいのだろうか。

裁判に訴える? 警察に告訴する? 自分自身で連れ戻す? それとも、何か「別の手段」があるのだろうか? 離婚トラブルに強い吉田雄大弁護士に聞いた。

●実力で子どもを連れ戻そうとすると「犯罪」になってしまう場合も

まず、夫婦にはそれぞれ、子どもを育てる権利である「親権」がある。そのうち、子どもを手元において監護・養育する権利を「監護権」という。そこで夫は、親権や監護権を根拠にして、「地方裁判所に子どもの引き渡しを求める訴えを起こすことができる」ということだ。

「しかし、通常の民事裁判ですから時間がかかるうえ、家裁調査官などの専門家が関与した形でのきめ細やかな審理は望めません。しかも、妻にも親権・監護権があるので、夫が民事裁判によって子どもを取り戻すことは難しいのが現実です」

このように吉田弁護士は説明する。では、実力行使をして子どもを連れ戻すべきなのか。

「実力で子どもを奪う行為については、具体的な態様によっては、親権者であっても未成年者略取罪(刑法224条)が成立し得るという判例があります。また、家庭裁判所で審理されることになったときは不利に働きますし、何より子ども自身に大きなショックを与えてしまいかねませんので、自分自身で連れ戻すことはお勧めできません」

ちなみに、そもそも妻が家を出て行くときに子どもを連れていくのも、未成年者略取罪になるのではないかという疑問もわくが、現実には、警察が犯罪として検挙することはほとんどないという。

●家庭裁判所に「審判」を申し立てるのが一般的

民事裁判も期待できず、実力行使もダメとなったら、どうすればいいのか。第三の方法として考えられるのが、家庭裁判所に審判を申し立てるという方法だ。いわゆる「子の監護者の指定と子の引き渡しを求める審判」を、家裁に申し立てるのだ。

「家庭裁判所には、(1)子どもの監護者を自分(夫)に指定することと、(2)監護権に基づき子どもを引き渡すこと、の2点について審判を求めることになります。また通常は、これらの審判に関する保全処分についても、合わせて申し立てます。保全処分が認められれば、『本案審判が確定するまでの間、仮に』という形ではありますが、子どもを引き渡してもらうことができるようになります」

家裁に審判を申し立てると、夫と妻がそれぞれ事情を説明する審問期日が開かれ、家裁調査官による調査も行われる。調査官による調査では、裁判所での聞き取りのほか、それぞれの自宅を訪問したり、子どもの通う学校や保育園から事情聴取したりすることなども、適宜行われるという。

●家庭裁判所には「現状の監護状態を尊重しよう」という傾向がある

では、家庭裁判所での審理のポイントは、どこにあるのだろうか。

「審理では、夫婦が同居していたときのそれぞれの子育ての状況のほか、別居に至る事情や話し合いの有無・内容、妻の現在の監護状況と夫側の受け入れ態勢などが、調査対象となります。それと同時に、またはそれ以上に、子どもの意思や心身の状況、適応能力なども重視されます。

ただし、子どもは両親が仲良くすることを望んでいるでしょうが、実際には、現時点で生活を共にしている大人になついて、適応していることが多いといえます。また、家庭裁判所の考え方として、『生活状況に特段の問題がなければ、現状の監護状態を尊重しよう』という傾向があることは否めません。

このような点から、子どもを連れて家を出ていった妻から、夫が子どもを連れ戻すことは、並大抵のことではありません」

このように吉田弁護士は「夫が子どもを連れ戻すことの大変さ」を指摘する。そのため、離婚に関する一般向けの書籍では、「子どもの親権がほしかったら、別居するときに子どもを手放してはいけません」というアドバイスがされているほどだ。

●子どもの意思をできるだけ尊重しようという傾向が強まっている

ただ、子どもが夫婦どちらのもとで暮らすのがいいかは、子どもの年齢によっても変わってくる。今年から施行された家事事件手続法では、家庭裁判所の審判において、子ども自身が一定の「手続行為」をすることができるとされており、子どもが15歳以上の場合には「陳述を聴かなければならない」と定められている。

つまり、子どもの意思をできるだけ尊重しようというわけだ。その傾向は、以前よりも強まっているということだ。そんななかでの家庭裁判所の意味について、吉田弁護士は次のように指摘している。

「新しい動きのなかで、子どもに寄り添い、子どもにとって何が一番幸せかを考える専門家の関与も認められるようになりました。一連の審判手続の中で、夫婦間の実質的な話し合いが促され、子どもの幸せという観点から柔軟な解決方法が探られることもあります。問題解決のため、家庭裁判所の果たす役割はますます重要となったといえます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

吉田 雄大
吉田 雄大(よしだ たけひろ)弁護士 あかね法律事務所
2000年弁護士登録、京都弁護士会所属。同弁護士会子どもの権利委員会委員長等を経て、2012年度同会副会長。2018年6月から日弁連貧困問題対策本部事務局長。

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