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遊園地の記念写真サービス 「見本」をスマホで撮影したら万引き?
誰もが携帯やスマホを持ち歩き、ひっきりなしに記念撮影をする時代だ

遊園地の記念写真サービス 「見本」をスマホで撮影したら万引き?

「あなたがたのやってるのは、万引きと一緒です」。遊園地で働いているという人物が、ネット掲示板「はてな匿名ダイアリー」に寄せた投稿が議論を呼んでいる。

遊園地でジェットコースターなどのアトラクションに乗ると、急降下の絶叫ポイントなどで乗客の写真を撮影し、乗客が望めば有料でプリントアウトしてくれるサービスがある。なかには、販売ブースにディスプレイを設置し、そこに「撮影した写真」を見本として展示しているところもある。

ところが一部の客が、そのディスプレイをスマートフォンなどで勝手に撮影し、お金も払わずに去っていくのだという。こうした客に対して、この投稿者は「あなたがたのやってるのは、万引きと一緒です」「売り物の見本だから展示してるのに、そんな事もわからないんですか?」と激怒している。

確かにそれでは商売あがったりだろうが……。これは「万引き」と言えるのだろうか。秋山亘弁護士に聞いた。

●刑法の「窃盗罪」に当たるかどうかが問題

「万引きは、刑法でいう窃盗罪です。つまり今回の論点は、ディスプレイに表示された見本を写真に撮ることが、刑法の窃盗罪(刑法235条)に当たるかどうかですね。

窃盗罪の定義は『他人の財物を窃取』することです」

――他人の物を盗ると、窃盗罪だということ?

「そうですね。もともと、この窃盗罪の対象として想定されていたのは『有体物』だけでした」

――有体物だけ? 形のないものを盗っても、窃盗にはならないということ?

「そうです。だから、かつては『電気』など有体物ではない財産について、窃盗罪の対象になるのかが、裁判で争われていた時代もありました。

この電気窃盗の問題は、明治40年の現行刑法制定時に、刑法245条で『電気を財物とみなす』という規定を置くことで、立法的に解決が図られました。

つまり、電気だけ特別扱いで、窃盗罪の対象にするということです。そのほかの『有体物でないもの』は、相変わらず窃盗罪の対象ではありません」

――ということは、今回のケースに当てはめると?

「それが『有体物を盗む行為』ではない以上、他人が撮影した写真を無断で撮影しても、刑法上の窃盗罪には該当しないものと考えられます」

――それでは、「万引きだ」という指摘は、的外れだったということ?

「そうですね。少なくとも『万引き』ではありません。しかし、決して合法だとは言い切れません。注意が必要です」

――違法になる場合もある?

「そういうことです。たとえば、遊園地側が写真撮影を禁止することを明示しているにも関わらず、隠し撮りすれば、民事上の不法行為責任を問われるかもしれません。

また、もしその見本が『著作物』とみなされるようなものであれば、著作権法違反になる可能性もあります」

なるほど、撮影が問題とされる可能性は、否定できないということだ。それにしても、誰もが携帯やスマホを持ち歩き、ひっきりなしに記念撮影をするこのご時世。遊園地というハレの場所で、(間接的なものとはいえ)自分自身の姿を撮影してはならないというのは、かなり無理がある気がするが……。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

秋山 亘
秋山 亘(あきやま とおる)弁護士 三羽総合法律事務所
民事事件全般(企業法務、不動産事件、労働問題、各種損害賠償請求事件等)及び刑事事件を中心に業務を行っている。日弁連人権擁護委員会第5部会(精神的自由)委員、日弁連報道と人権に関する調査・研究特別部会員

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