バスの運転手が高速道路を走行中に意識を失い、気付いた乗客がブレーキをかけるという事故が立て続けに起きた。7月1日には三重県で、4日には宮城県で発生した。いずれの運転手も突然死とみられる症状で運転操作ができなくなったが、乗客のとっさの判断で大事故はまぬがれた。
三重県の事故では、乗客3人が協力してハンドルとブレーキを操作した。バスは中央分離帯に接触しながら停止したが、ケガ人は出なかった。宮城県の事故では、夜行バスがガードレールや中央分離帯に衝突。事故の衝撃で目を覚ました乗客がブレーキをかけた。交代要員の運転手と乗客の2人が負傷したが、命に別条はなかった。
乗客の対応が少しでも遅れていたら、大惨事になっていたかもしれない今回の事故。ハンドルやブレーキの操作は当然認められるべきだと思われるが、本来、大型バスを運転するためには、特別な免許が必要だ。
そのような免許をもっていない乗客がバスの運転操作をした場合、道路交通法に違反しないのか。それとも、こういう緊急時は例外的に違法にならないのだろうか。森一恵弁護士に聞いた。
●「緊急避難」が成立すれば違法ではない
森弁護士は、道路交通法に抵触し得る場合でも、「刑法37条の緊急避難が成立して、違法とならないケースがある」と指摘する。
刑法37条の定める緊急避難とは、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為」については、一定の場合に違法性がなくなり、罰しないとするものだ。
●乗客がバスを緊急停車する行為は「緊急避難」といえる
そのうえで、森弁護士は、今回の事案について次のように説明する。
「道路交通法では、旅客を運送する目的でバスを運転するには、第二種免許を受けなければならないと定められています。
しかし、今回の事案では、高速道路上での大事故、すなわちバス乗客の生命や身体に対する危険が緊迫した状況にあります。バス乗客は、自己の生命や身体に対する緊迫した危険を避けるために、ハンドルとブレーキ操作をして自己の生命や身体を守る以外にとりうる方法がなかったと考えられます。
バス乗客のとった行為は、緊急状態下のやむをえない行為として、刑法37条の緊急避難が成立し、違法性が阻却されるものと考えます」
今回の乗客の行為は、違法性がなくなり道路交通法違反に問われないということだが、緊急避難が成立するのは、このようなやむをえない行為に限られることは、覚えておきたい。