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コミケだけでなく「クラブ」もピンチ? TPPで懸念される「非親告罪化」とは?
シンポジウムで議論する津田大介さん(左)たち

コミケだけでなく「クラブ」もピンチ? TPPで懸念される「非親告罪化」とは?

クラブでDJが音楽をかけるだけで著作権法違反で摘発される――そんな未来が待ち受けているかもしれない。TPP(環太平洋経済連携協定)交渉において、著作権法が争点の一つになるとみられているが、アメリカが著作権法の「非親告罪化」を提案する可能性があるからだ。

そんななか、TPPと著作権の関係を考えるシンポジウムが6月29日、東京都内で開かれた。「日本はTPPをどう交渉すべきか ~『死後70年』『非親告罪化』は文化を豊かに、経済を強靭にするのか?」と題されたシンポジウムには、ジャーナリストの津田大介さんや弁護士の野口祐子さん、福井健策さんらが登壇し、活発な議論をおこなった。

●日本政府が何も言わなければ「非親告罪化は通ってしまう」

議題にのぼった「非親告罪化」とは、著作権を侵害する犯罪について、著作権者の告訴がなくても検察起訴できるというものだ。

現在、日本の法律では、著作権侵害は「親告罪」とされているため、著作権者の告訴がなければ、警察や検察が動くことができない。しかしTPPによって「非親告罪化」されれば、第三者による通報をきっかけにして、警察の独自判断で摘発できるようになる。そうなれば、「グレーゾーン」とされるコミケの二次創作やクラブの楽曲利用もどんどん検挙される恐れがあるのではないか、というのだ。

たとえば、二次創作について、これまでの日本では比較的寛容にとらえる風土があった。その点について、シンボジウムでは野口弁護士が「出版社や権利者は、表だって聞かれれば『許諾なしで使われては困ります』と言っていますが、内心は、『コミケなんかで盛り上がったほうが本作も売れるし、マーケット全体が大きくなるなら、まあまあいいんじゃないの』と思っている人もいると思うんです」と指摘した。

だが、非親告罪化となれば、権利者の考え方しだいというわけにもいかなくなる。「日本の著作権法に、非親告罪化が採用される可能性はどれくらいあるのか?」。津田さんがそう質問すると、福井弁護士は次のように答えた。

「非親告罪化については、TPPでどんな議論をやっているのかまったく読めません。TPPの秘密協議っぷりは見事で、あまり表に出てこないんです。対立しているという話ばかりで。非親告罪化をどれだけ議論しているかもわかりません」

このように予測が難しいことを指摘しつつ、福井弁護士は次のような懸念を口にした。

「想像になりますが、TPP加盟国のうちで日本ほど、グレー領域での二次創作やさまざまなビジネスが花開いている国というのは、あまり思いつかないんです。だから、TPP交渉で日本が何も言わなければ、非親告罪化がスーッと通ってしまう気がするんです」

●「非親告罪化」で、クラブDJが通報されやすくなる

議論は、若者が集うクラブの話題にも及んだ。著作権法の非親告罪化は、このクラブにも影響してくるかもしれないというのだ。というのも、クラブDJが多数の客の前で、著作物である音楽CDやレコードをかけることは著作権を侵している可能性があり、非親告罪化すれば、誰もがこれを通報できるようになるからだ。この問題にも福井弁護士が答えた。

「ライブ会場でのDJをどう見るかによって、著作権の問題は変わるんですが、何の許可もなしにやっているとすれば、通報を受けやすくなるでしょうね」

津田さんも「すごく声の大きな人が『あそこで著作権侵害をしている人がいる』と言ったら、警察も動かざるを得ないというのがあると思うんです」と指摘した。

「グレー領域をそれなりにうまく生かしてきた日本文化にとって、親告罪というのは、それなりに相性がよかった。しかし、非親告罪化すれば、これがどうなるか」

福井弁護士はこのように問題を提示した。マスメディアではあまり取り上げられない「非親告罪化」の話題だが、TPP協議の展開しだいでは、日本の文化の未来に大きな影響を与える可能性があるといえそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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