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「ネット選挙解禁」を後押しした「若者の声」 どのように広がっていったのか?
公選法改正案の可決後、国会議事堂前で「解禁」の文字を広げる原田謙介さん(右から3番目)とOneVoiceCampaignの仲間たち

「ネット選挙解禁」を後押しした「若者の声」 どのように広がっていったのか?

いよいよインターネットの選挙運動が解禁になる。7月4日に公示される参議院選挙から、日本でもネットを使った選挙運動ができるようになるのだ。インターネット元年と呼ばれた1995年以降、何度も公職選挙法改正に向けた議論が起こりながら、高い壁にはばまれてきた「ネット選挙運動」が、今年4月の改正案可決によって、ついに実現することになった。

その解禁に向けて、昨年5月から「OneVoiceCampaign(ワンボイスキャンペーン)」と称する活動をおこなってきた若者たちがいる。キャンペーンの発起人である原田謙介さんに、ネット選挙解禁が若者の政治参加にどのような影響を与えるのかを聞いた。

●政治とは無縁の若者が集まって、「ネット選挙解禁」に向けたキャンペーンを始めた

――「OneVoiceCampaign」とは、いったいどんなキャンペーンだったのでしょう?

「OneVoiceCampaignとは、インターネット選挙運動の解禁を目的として、有志が集まって始めたキャンペーンです。有権者一人一人の声(OneVoice)によって政治を動かすことをコンセプトとしています。初期メンバーは約10人で、学生や若手社会人が中心でした。メンバー用のFacebookグループを作って情報や意見の交換をしていましたが、そのグループの人数は、最終的に100人を超えました。

メンバーのなかには、もともと政治に強い関心を持っていた者もいましたが、多くのメンバーは政治とは無縁でした。『いまの時代にネット選挙が解禁されていないっておかしい』『有権者の声で政治を動かすのは楽しそう!』といった素朴な感情に動かされて、さまざまな職種や経歴をもったメンバーが集いました」

――なぜ、「インターネット選挙運動」の解禁を目指したのでしょうか?

「僕はもともと、大学のときに、若者の投票率向上を目指す学生団体『ivote(アイボート)』を立ち上げるなど、政治に積極的に関わっていましたが、ネット選挙が解禁されていない現状に対して不満をもっていました。僕たちの生活をみれば、スマートフォンやSNSの普及に象徴されるように、インターネットがごく当たり前のように身近に存在しています。しかし、選挙運動になると、そのインターネットが全く使えない状態でした。

このいびつさを変えなければ、政治や候補者と有権者の距離は開いていく一方です。若者の政治離れが言われて久しいですが、政治を変えるためには、政治家を選ぶ仕組みである『選挙制度』を見直さなければいけません。OneVoiceCampaignでは、インターネット選挙運動解禁をきっかけとして、あまり議論に上がることのない公職選挙法の改正や選挙制度全体への興味も広がればいいと考えていました」

――具体的には、OneVoiceCampaignで、どんなことを行ったのでしょうか?

「まず、ホームページやFacebookページを立ち上げ、ネット選挙が解禁されていない現状やそれに異議を唱える僕たちの主張を発信しました。同時に、田原総一朗さんや津田大介さんなどの著名人の方々にインタビューして、短いメッセージ動画にしたものを掲載しました。この作戦は的中し、Facebookページには数日で3000件もの「いいね!」が集まり、SNSで一気に拡散していきました。

活動を始めた2012年5月ごろは、ネット選挙運動に関するニュースはほとんどなく、政治的な課題としても捉えられていませんでした。また、一般の人はそもそも、ネット選挙運動ができないということさえ知らない人が多かったです。そこで、現状を多くの人に知ってもらい、政治の中で争点として扱ってもらうようにすることを目指し、イベントをしかけていきました。

一つは、シンポジウム。各党の国会議員や有識者の方をゲストに呼んで、1年のあいだに計4回、シンポジウムを開きました。毎回200人前後の聴衆を集め、インターネット中継でも毎回2万人前後の視聴者に見てもらうことができました。もう一つは、アンケート。政治家に問題意識をもってもらうことを狙い、国会議員全員に向けて、ネット選挙運動解禁への賛否を問うアンケートを実施しました」

●「硬いイメージ」にならないように、キャンペーンの見せ方を工夫した

――キャンペーンで注意した点は、なにかありますか?

「有権者向けに意識したことは、キャンペーンの見せ方ですね。スタイリッシュで、誰もがとっつきやすいものとなるように、キャンペーンの名前やロゴ、ホームページなどを作りました。政治関係のキャンペーンはどうしても硬いイメージになりがちですが、そうならないように気を配りました。また、30代以下の若い世代に親しみをもってもらえるように、『みんなの声で法律を変える!政治を動かすそう!』といったイメージを作ることも意識しました。

一方、政治家に対しては、解禁に積極的な議員を『応援する』というスタンスで望みました。実際の国会議員は、ネット選挙解禁に『消極的な賛成』という人が多かったようです。つまり、表立った反対はしないが、できれば解禁してほしくないと思っている人たちが大半でした。積極的に汗をかいて、解禁に向けて力を尽くしてくれる人は各党の中で少数派でした。そういう人たちを党派を超えて応援しよう。そういうスタンスでのぞんだのです」

――そして、「インターネット選挙運動」を解禁する法案が可決されました。

「正直なところ、今回の公選法改正案の可決に、OneVoiceCampaignがどれほど影響を与えることができたのかはわかりません。しかし、一年前は話題にされなくなっていた『インターネット選挙運動解禁』というテーマを世の中に広めるきっかけを作ったことや、4回のシンポジウムを通じて各党の政治家に解禁に向けた世論の高まりを感じさせたことなどは、一定の価値があったと思います。ネット選挙解禁を目前に控えた6月下旬には、安倍首相がYoutubeにアップされた動画でOneVoiceCampaignに言及し、『世の中の機運を大いに高めてくれた』と話しました。おそらく国会議員も注目するようなキャンペーンだったのだと思います。

今回のネット選挙解禁の具体的な中身には納得がいかない点もありますが、解禁が決まったことはもちろん嬉しいことで、達成感もありました。でも、この解禁はスタートでしかありません。インターネット選挙をよりよいものとするために、有権者や候補者が動いていかなければなりません。これをきっかけに、有権者と政治のコミュニケーションがもっと活発になり、日本をよりよい方向に変えていく原動力にしていく必要があります」

(弁護士ドットコムニュース)

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