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試合中に「かみついた」サッカー選手 「暴行」なのに逮捕されないのはなぜ?
スポーツの試合中の「暴力行為」は、法的な責任が検討されないのだろうか?

試合中に「かみついた」サッカー選手 「暴行」なのに逮捕されないのはなぜ?

サッカーのイングランド・プレミアリーグの強豪チーム、リバプールに所属するルイス・スアレス選手が4月に行われたチェルシー戦で、相手選手に噛みつくという事件がおきた。スアレス選手はオランダのアヤックスに在籍していた2010年にも相手選手にかみつき、7試合の出場停止となっている。

プレーを受け、所属チームのリバプールは4月22日、同選手に対して罰金を科したと発表した。イングランド・サッカー協会も4月24日、同選手に10試合の出場定処分を言い渡した。

しかし、同選手に対して法的な処罰は今のところ検討されていないという。

相手に噛みつくという行為は、競技場の外であれば、暴行罪か傷害罪で逮捕されてもおかしくない。なぜ、スポーツの試合中の行為は、その法的な責任が検討されないのだろうか。「プレーの延長線上」にあるわけでもない、単なる「暴行」といえる行為であるにもかかわらず、選手が逮捕されないのはなぜか。スポーツに関する法律問題に詳しい辻口信良弁護士に聞いた。

●競技ルールに反するような暴行なら「逮捕」もあり得る

「他人に暴行をすれば、『有形力の行使』として暴行・傷害罪で逮捕されます。しかし、もし正当な理由があれば、法律的には『正当行為』として責任を問われません(刑法35条)。例えばボクシングでは、殴って相手を倒すのがルール(正当行為)ですから、より強い暴行が讃えられているとさえ言えます。

しかし当然ながら、ルールで認めらない暴行は違法で、試合会場で逮捕されてもおかしくありません。今回のかみつきは、明らかに違法と言えるでしょう。『かみつき』で有名なケースといえば、かつてボクシングのマイク・タイソンが相手の耳をかみ、反則・失格になった事件があります。

ただ、タイソンの例も含め、なかなか試合中に逮捕という事例は聞きません。スポーツの試合会場には、非日常的な独特の雰囲気があります。観客の前での逮捕は、必要以上に会場の雰囲気を壊し、報道も過大になるなど、好ましくない結果を生むからでしょう」

――逮捕された例は?

「例えば日本では、2012年12月、奈良県でのフットサルの試合中、審判からのレッドカードに怒り、倒れた選手の首を蹴って怪我をさせたとして、退場後に傷害罪で現行犯逮捕された元日本代表選手の例が報告されています(その後、被害者との示談成立により不起訴)」

なるほど、試合中の行為についてはある程度、柔軟な判断が行われているようだが、スポーツも決して聖域ではないということだ。仮に逮捕が避けられたとしても、暴行をしたという事実はずっとついて回る。選手もそのことをきちんと理解したうえで、気を引き締めるべきと言えるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

辻口 信良
辻口 信良(つじぐち のぶよし)弁護士 太陽法律事務所
大阪弁護士会所属。日本スポーツ法学会理事、30年以上にわたり、主として選手側からスポーツ問題で発言。ヤクルトスワローズ古田敦也・ガンバ大阪宮本恒靖各選手らの代理人、2013年に指導者による暴力問題を告発した全柔連女子15名の代理人を務める。失敗に終わったが2008年の大阪オリンピック招致の市民応援団長。モットーは「スポーツの平和創造機能」と「スポーツにおける負けるが価値」。その他、離婚・相続等民事事件全般を取り扱う。著書に『平和学としてのスポーツ法入門』(2017年、民事法研究会)、ブログ「スポーツ弁護士のぶさん」(http://dreamannob.cocolog-nifty.com/blog/)。

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