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「悪魔ちゃん事件」から20年――子どもの「命名権」をどう考えるべきか?

「悪魔ちゃん事件」から20年――子どもの「命名権」をどう考えるべきか?

子どもに悪魔の名前をつけるのは認めない――ニュージーランドの出生届受付機関が5月1日、これまでに命名申請を却下したリストをCNN(国際ニュース放送局)に伝えたが、そのなかに悪魔の名前として知られる「ルシファー」があった。自分の子どもに悪魔の名前をつけようとした親は過去12年で6組いたという。ほかにも「キリスト」や「メシア(救世主)」という名前をつけることは認められないのだそうだ。

悪魔の名前といえば、今から20年前の1993年、日本でも同様の動きがあった。その名も「悪魔」という名前を我が子につけようとした親が、東京都の昭島市役所に出生届けを出したが、市が戸籍に記載することを拒んだ。そこで、親は「悪魔」という名前を戸籍に載せるべきだと、家庭裁判所に審判を申し立てたのだ。

結局、親が途中で審判を取り下げ、別の名前に変えることに同意したが、事件は大きく報道され、世間の注目を集めた。いわゆる「キラキラネーム」にも通じる要素を持った事件だったといえるが、子どもの命名権は日本でどう考えられているのだろうか。寄井真二郎弁護士に聞いた。

●どんな名前を子につけるかは、原則として「親の自由」

「最近読み方のわかりにくい名前が増えていますが、申請の際の制限については、戸籍法50条1項で、『子の名には、常用平易な文字を用いなければならない』と規定されています。具体的には、常用漢字表に掲げる漢字や平仮名・片仮名などが使用できることになっています(戸籍法施行規則60条)。つまり、名前に用いられる字に一定の制限があるものの、親の命名は、原則として自由に行使できます」

このように寄井弁護士は説明する。つまり、使える文字に制限はあるものの、どんな名前を子どもにつけるかは、親にまかされているということだ。ただ、例外的に、親の命名が認められない場合もある。

「命名は個人の人格を表したものであり、子の生涯において、他の人格と分別して特定・識別させるという機能を果たします。その点で、子の養育・監護と結びついた親権の域を超えるものといえます。そのため、『悪魔』という命名について、裁判所は命名権の濫用として例外的に否定しました。

悪魔ちゃん事件以外には、命名権の濫用を認めた事例はないようですが、『難解、卑猥、使用の著しい不便、特定(識別)の困難等の名は命名することができない』とする古い裁判例があります」

●極端な場合でない限り、役所からストップがかかることはない

このように寄井弁護士は述べ、悪魔ちゃん事件が極めて珍しいケースだったことを指摘する。「キラキラネーム」といわれる読み方が難しい名前も増えているが、今後、役所側の対応は変化していくのだろうか。

「出生届を受ける役所が、届け出された名前について一つ一つ、命名権の濫用に該当するかどうかの判断を行うことができるのかといえば、難しいといわざるをえません。審査の画一性を欠き、制度的に困難を伴うばかりか、行政による過度の介入を招くこともつながり、適切ではありません。

したがって、他人がどのように読むのか苦慮してしまう名前については、その名を呼ぶ他人に対する配慮も必要でしょうが、実際には、悪魔ちゃん事件のように極端な場合でなければ、親の命名について、役所からストップがかかることはないと思われます」

「悪魔ちゃん事件」から20年がたち、日本の社会も変わったが、親から与えられた名前が子どもの人生に少なからぬ影響を与えるのは、当時も今も変わらない。どんな名前をつけるか、親の自由にまかされている分だけ、その責任は重いといえるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

寄井 真二郎
寄井 真二郎(よりい しんじろう)弁護士 弁護士法人しまなみ法律事務所
離婚・相続等の家族関係事案のみならず、金融・企業法務、交通事故等幅広く業務を行っている。地元自治体や銀行、造船、タオルメーカー、病院等の法律顧問の他、株式会社フジ(東証プライム)、国立大学法人愛媛大学等の役員にも就任している。「家庭弁護士の訟廷日誌」、「田舎弁護士の訟廷日誌」、「交通事故弁護士の訟廷日誌」等というブログも執筆中。

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