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国内初の「卵子バンク」がスタート 「法整備」に問題はないか?
卵子バンクは不妊に悩む女性への福音となるか?

国内初の「卵子バンク」がスタート 「法整備」に問題はないか?

病気などが原因で不妊に悩む女性に卵子を提供する、国内初の「卵子バンク」がスタートする。この卵子バンクの母体は、医師や法律家、心理カウンセラーなどの協力のもとで設立されたNPO法人。5月13日には、9人の女性がドナーとして登録し、3人の女性が卵子提供を受けることが発表された。

こうした動きは、海外に渡航してまで卵子提供を受けようとしてきた女性たちにとって、福音になるだろう。だが、卵子提供をめぐる国内の法整備は、不十分なままだ。2003年に厚生労働省の審議会が、「卵子提供のあり方」についての報告書を発表したが、いまだに具体的な立法につながっていない。

はたして、現行法の下で卵子提供が行われた場合、法的にはどういった問題が予想されるのか。たとえば、法律上の母親は、「産みの母」なのか「遺伝上の母(卵子提供者)」なのかといった問題はないのだろうか。内山知子弁護士に解説してもらった。

●「現行法では明確でないので、子どもの地位が不安定になる」

まず、第三者からの卵子提供を受けて生まれた子どもの母親は、産んだ人なのか、卵子提供者なのか。内山弁護士は「現行法上、明確でないので、子どもの地位は不安定になります」と指摘する。

「通常の出産であれば、母親と生まれた子との間の法的な親子関係は、『原則として母の認知を待たず、分娩(ぶんべん)の事実により当然発生する』(最高裁昭和37年4月27日)とされています。

つまり、産んだ人が母親になる、ということになります。通常の出産では、妊娠・出産を通じて、子と母親との生物学的つながりを疑わせるものは何もないからです」

内山弁護士は、過去の判例にもとづき、このように説明する。

「一方で、第三者からの卵子提供による出産の場合には、先に述べた判例が妥当しないとされるおそれは十分に考えられるでしょう。ですから、出産しても認知をしないでいると、生まれた子との間の法的な親子関係が認められないということになりかねません(民法779条)」

●「親子関係について明確に決められないため、親族間の紛争が多発するおそれも」

さらに、内山弁護士は「父親との関係も安泰ではありません」と説明を続ける。

「『妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子(嫡出子)と推定する』(民法772条)とされていますが、『妻が』、『懐胎』という2つの文言の意味をどう捉えるかによって、第三者からの卵子提供による出産では、この条文が適用されない事態も生じえます。

たとえば、夫婦の実子として出生届を出しても、後からさかのぼって、嫡出関係ひいては親子関係が否定されることもありえるでしょう」

このように解説した上で、内山弁護士は「親子関係について明確に決められないと、親族間の紛争も多発するおそれがあります」と警鐘を鳴らす。たしかに、親子関係が法律上不安定となってしまうと、扶養の義務や相続といったことにも波風が立つかもしれない・・・・。

●「子どもが自分の出自を知る権利も害される」

では、子どもが自分の出自を知る権利はどうなるのか?

「現行法上では、戸籍上、卵子提供者が誰かは分かりません。医療機関のカルテの保存期間が5年とされていることからすると、大きくなった子どもが自分の出自を知ろうと思ったときには、すでに知るすべがないということもありえるでしょう。逆に、極めてセンシティブな個人情報なので、漏えいした場合の損害は大きくなります」

内山弁護士によると、ほかにも、卵子提供者から卵子を取り出すときに医療事故が起こった場合や、子どもに遺伝的異常や感染症が起こった場合に誰が治療費を負担するのか、という問題が起きてくるかもしれないという。今後起こりうるトラブルを防ぐためにも、国には迅速な法整備が求められるだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

内山 知子
内山 知子(うちやま ともこ)弁護士 池袋若葉法律事務所(2016年8月より)
第二東京弁護士会消費者問題対策委員会委員(2009年度、2010年度は副委員長・医療部会長兼任)。子どもの権利委員会委員としての経験を活かし、親族・相続分野を始め幅広く活動中。

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