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凶悪犯罪の写真を見ることもある「裁判員」 精神疾患になったら補償はあるか?
裁判員は、殺人などの凶悪犯罪や重大事件について判断を求められる

凶悪犯罪の写真を見ることもある「裁判員」 精神疾患になったら補償はあるか?

血みどろの殺害現場のカラー写真がフラッシュバックする――。強盗殺人罪などに問われた被告人に死刑判決を言い渡した福島地裁郡山支部の裁判員裁判。そこで裁判員を務めた60代の女性が、「急性ストレス障害」と診断された。

女性は裁判の審理過程で、被害者の遺体や血の海になった犯行現場の写真を見ただけでなく、被害者が助けを求める119番通報の音声も聞かされたという。女性は5月7日、国に対して慰謝料など200万円の賠償を求める訴訟を起こした。

裁判員裁判は、殺人などの凶悪犯罪や、社会の耳目を集めた重大犯罪について判断することが多い。法廷で証人や被告人に質問したり、裁判官が同席した評議に参加して、事件の真相とは何か、刑の重さはどのくらいが適切かなどについて意見を述べることが求められる。

そもそも、裁判員は精神的な負担が大きい。直視できないような凄惨な証拠写真を見たことで体調を崩すこともあるだろう。では、このような裁判員を想定した補償制度はあるのだろうか。大竹健嗣弁護士に聞いた。

●裁判員は「非常勤」の裁判所職員 「国家公務員災害補償法」の適用を受ける

大竹弁護士によると、「法曹の卵である司法修習生でも、死体解剖に立ち合った際には、最後まで立ち会うことができす、口を押さえて解剖室から逃げ出す者もいる」のだという。

「一般の人から選ばれた裁判員は、通常であれば目にすることのない血まみれの殺害現場のカラー写真や音声などの証拠を確認する必要に迫られます。これらの写真や映像、音声を経験すると、精神的・身体的ショックを受けることは想像に難くないでしょう。

ですから、裁判員から強い精神障害を受けるとの申出を受け、裁判所がこれを認めた場合、カラー写真をモノクロに変更したり、状況によっては補充裁判員に交替させるなどの配慮が必要となります」

では、裁判員が後々にも残るような心の傷を負った場合は、どのような補償が受けられるのだろうか?

「裁判員が障害を負った場合にも、裁判所職員と同様の補償が受けられるべきです。裁判所の裁判員に関するホームページにも、『裁判員は、非常勤の裁判所職員であり、常勤の裁判所職員と同様に、国家公務員災害補償法の規定の適用を受けます』と記載されています。

したがって、裁判員は同補償法における、国家公務員の負傷、疾病、障害と同様に補償され、これらを患った場合は、療養補償として必要な療養やその費用を受け取ることができることになります(同法10条)」

このように法的な説明をした上で、大竹弁護士は次のような見解を述べている。

「多くの裁判員は、事件を通して、生と死を考え、あるいは家族や周囲の大切さに感謝し、自分の生き方を根本から考え直す良い機会と捉えて、苦労を乗り越えてくださっているのではないかと推察しています」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

大竹 健嗣
大竹 健嗣(おおたけ たけつぐ)弁護士 ヴィクトワール法律事務所
検事として約30年にわたり、刑事事件の捜査・公判に携わる。後輩検事の指導、育成にも力を入れてきた。2000年に弁護士登録。趣味は映画鑑賞、登山、旅行。

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