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パロディ作品について、現行法における違法可能性と新たな法規定の行方を考える

パロディ作品について、現行法における違法可能性と新たな法規定の行方を考える

コミックマーケットと呼ばれる同人誌のイベントやインターネットの動画サイトなどで、漫画やアニメなどの著作物をもとに作られたパロディ作品を目にしたことがある人は多いのではないだろうか。

パロディ作品とは、著名な漫画やアニメ、あるいは文学作品や楽曲などを元に、登場人物や設定を流用しつつ、原作とは異なった別の作品として著作者以外の者に作られたもののことであり、例えばアニメの最終回の続きとしてその後の世界を描いたものや、漫画の絵や構図を流用しながらセリフだけ全く違った内容に入れ換えたものなどがある。

これらのパロディ作品は昔から存在していたが、近年ではインターネットの動画サイトなどを通じてパロディ作品を不特定多数の人に発信しやすくなり、また多様な形態のパロディ作品が考案されるようになったため、その数が著しく増加しているのではないかという声がある。ミュージシャンのプロモーションビデオを一般人がアレンジを加えながら再現したような動画は、まさに動画サイトの発展によるものといえるだろう。

しかし、実は現在の著作権法にはこのようなパロディ作品に関する直接的な規定が存在しない。

今年6月には文化庁長官の諮問機関として著作権の法制度を検討する文化審議会にて、パロディ作品に関する規定を今期の検討課題にすることが決定されたが、法整備されるには数年かかる見通しだ。

それでは現行法において、パロディ作品はどこまで許されるのだろうか。著作権法に詳しい福井健策弁護士に見解を聞いた。

「パロディに限らずリミックスなど多くの二次創作は、原作品のストーリー・絵柄・メロディなどの『創作的表現』を加工して使いますので、多くは翻案や編曲と評価されます。これは自分や数名の親しい友人間で楽しむだけならば、『私的複製』の一環で許される余地があります。それ以外ですと、パロディ目的だからといって無許可での翻案・編曲を許す規定は現行法にはありません。」

「そのため、同人誌など現在のパロディの多くは『暗黙の領域』でおこなわれており、多くの二次創作は、裁判にまで持ち込まれると著作権や著作者人格権の侵害という認定を受ける可能性が高くなります。例外は、筒井康隆さんの『日本以外全部沈没』のような、題名と基本の着想以外はほぼ借りていないタイプのパロディですね。これは原作の『創作的表現』を使っていないので、現行法でも恐らく問題ないでしょう。」

著作権侵害罪は親告罪(※)であり、また、著作権者が、多数存在するパロディ作品1つ1つに対し民事裁判で争うことは現実的ではない。そのためもあり、ほとんどのパロディ作品は暗黙の領域としていわば放置されている状態にあるが、もし裁判になった場合には違法と判定される可能性が高いようだ。

それでは今後検討される規定についてはどのような観点があるのだろうか。

「諸外国では、フランス・スペインなどには『パロディ規定』があり、『ユーモア性があって、原作に市場で悪影響を与えない』などの基準で一定のパロディは無許可でも許されます。米国には『フェアユース』という一般ルールがあり、やはり『原作品の収益で悪影響がない』といった要素が考慮されて、一定のパロディが合法と判断されて来ました。」

「日本には、和歌の本歌取り・歌舞伎から映画・マンガ・ボカロ動画に至るまで、『二次創作』の長い豊かな伝統があります。そのため、パロディ規定の検討には大きな意味がありますが、他方で明文化することで現在の『暗黙の領域』の共生関係がかえって崩れないかという意見もあります。欧米の例を参考にしつつも、日本なりの正解を探す努力が必要ですね。」

福井弁護士のいう通り日本は伝統的に二次創作が盛んであり、それがまた新たな芸術作品を生み出す土壌になっている一面もあるとも考えられる。仮にパロディ作品を一概に違法なものにしてしまうと、創造性が発揮される機会を削いでしまうことにもなりかねない。

将来的にパロディ作品について法的にはどのように規定するべきか、著作権保護と芸術文化の発展という別々の観点から繊細な検討が求められることになりそうだ。

(※編集部注:告訴権者による告訴がなければ刑事裁判ができない犯罪のこと)

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

福井 健策
福井 健策(ふくい けんさく)弁護士 骨董通り法律事務所
骨董通り法律事務所 代表 弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院・iU ほか 客員教授。専門はエンタテインメント法。内閣府知財本部・文化審議会ほか委員。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「ロボット・AIと法」(共著・有斐閣)、「インターネットビジネスの著作権とルール(第2版)」(編著・CRIC)など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。Twitter:@fukuikensaku

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