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「外れ馬券」の購入費、今度は「経費」と認められず――どうしてそんな判決になった?
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「外れ馬券」の購入費、今度は「経費」と認められず――どうしてそんな判決になった?

「外れ馬券」の購入代を経費と認めず、約2億円を追徴課税したのは違法だとして、北海道の男性が国を相手取って、課税取り消しを求めた訴訟の判決が5月中旬、東京地裁であった。増田稔裁判長は、経費として認定せず、男性側の請求を棄却した。

報道によると、男性は2005~10年の6年間に計約72億7000万円の馬券を購入して、約5億7000万円の利益をあげた。外れ馬券の購入代を経費に含めて確定申告したところ、札幌国税局は当たり馬券分しか経費と認めず、男性に加算税を含め約2億円を追徴課税した。

外れ馬券をめぐっては、最高裁が今年3月、大阪市の元会社員の馬券購入について、「長期間、網羅(もうら)的な購入で経済活動の実態がある」として、経費として認める判断を示していた。

一方で、今回の判決は、「男性はレースごとの個別の予想で購入しており、一般愛好家の購入方法と変わらない」と指摘。「最高裁の事例のように機械的、網羅的に購入していたとは認められない」と判断した。

今回の判決のポイントについて、奥山倫行弁護士に聞いた。

●どうして最高裁の判決と異なる結論になったのか?

「馬券購入代を、経費として認められる『雑所得』と判断した最高裁の事例は、勝ち馬予想ソフトを駆使しながら、インターネットで馬券を大量購入したというものでした。

そのため、一般的な馬券の購入行為とくらべて、

(1)回数、金額が極めて多数、多額に達しており、その態様も機械的、網羅的であること

(2)過去の競馬データの詳細な分析結果等に基づく、利益を得ることに特化していること

という点が重視されました」

奥山弁護士はこう最高裁の事例について説明する。では、どうして今回は異なる結論となったのだろうか。

「今回は、(a)馬券購入の回数や金額が極めて多数、多額に達していることや、(b)過去の競馬データの詳細な分析結果等に基づいて利益を得ることに特化した馬券購入行為であることは、最高裁の事例と変わらないと思います。

しかし、馬券購入行為の態様が、『機械的』『網羅的』なものとは評価できないということで、経費として認められない『一時所得』に認定されてしまったのでしょう」

●国税局は「40年以上前の通達」を根拠としている

今回の判決を受けて、北海道の男性は控訴する方針だと報じられている。今後はどういったところがポイントになるのだろうか。

「最高裁の判断を前提とすると、北海道の男性の馬券購入行為の態様が、趣味や娯楽の範囲を超えて、継続性・恒常性のある所得と認められるかどうかがポイントになります。

つまり、男性側からすれば、馬券購入行為の態様が『機械的』『網羅的』なものといえるかどうかについて、客観的に立証することができるか否かが、重要になると思います」

それにしても、どうしてここまで混乱が起きているのだろうか。

「国税局は1970年の通達を根拠として、競馬のもうけは『一時所得』と判断しています。

しかし、この通達は40年以上も前のものです。当時は、インターネットを通じて大量かつ迅速に馬券を購入するような形態での馬券購入行為は、想定されていなかったのではないでしょうか。

やはり、時代に合ったかたちで、通達を見直すことが必要だと思います」

奥山弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

奥山 倫行
奥山 倫行(おくやま のりゆき)弁護士 アンビシャス総合法律事務所
慶應義塾大学大学院卒業。司法修習第55期。札幌弁護士会所属。TMI総合法律事務所退所後、2007年4月に札幌にてアンビシャス総合法律事務所を開設し現在に至る。

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