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生レバー提供禁止、店と客は法的に対抗できるか

生レバー提供禁止、店と客は法的に対抗できるか

厚生労働省は6月12日、食品衛生法に基づき食中毒の恐れがある牛の生レバー(肝臓)の提供を、7月1日から禁止することを決定した。現時点では、牛レバーを生で安全に食べられる有効な予防対策が見いだせていない、というのが規制の理由だ。

昨年4月に発生した焼肉チェーン店の集団食中毒を受け、厚労省はユッケなど生食用牛肉の提供基準を厳格化し、「より食中毒のリスクが高い」とされていた牛の生レバーへの規制も検討を始めた。同省の研究により、牛の肝臓内部から毒性が強い腸管出血性大腸菌O157が検出され、内閣府の食品安全委員会は今年4月、提供禁止は「妥当」という見解をまとめていた。 

7月から適用される規格基準は、次の2点とされている。
(1)牛の肝臓は、生食用として販売してはならない。加熱を要するものとして販売しなければいけない。
(2)牛の肝臓を使用して食品を製造、加工または調理する場合は、牛の肝臓の中心部を63℃で30分間以上加熱するか、またはこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌しなければならない。

一方、今年4月から1ヶ月にわたり、厚労省が実施した牛レバーの規制案についてのパブリックコメント(意見公募)には約1,500件が寄せられ、その大半が、「レバ刺しは食文化」「生レバーが好きなので禁止しないでほしい」など規制に反対するものだった。

上記のことからも分かるように、生レバーは非常に多くの日本人に愛されている食べ物である。ゆえに、規制が設けられても違反するケースが出てくる事も考えられる。

7月以降、もし飲食店が生レバーをこっそり提供した場合、どのような法的責任に問われるのだろうか。また、客が生レバーの提供を要求し、店がそれに応じた場合、客にも法的な責任は生じるのだろうか。食品衛生法に詳しい、清水琢麿弁護士に聞いた。

「今回の厚生労働省の発表は、牛レバーを生食することが、食品衛生法第11条第1項に基づく規格基準から外れることになり、結果的に、牛レバーの生食が禁止されることを意味します。また食品衛生法は、第72条第1項において、前述の同法第11条第2項に違反した場合の罰則について、『2年以下の懲役又は2百万円以下の罰金に処する』と規定しています。」

「よって、この規格基準に反して、飲食店側が消費者に牛レバーを生食させた場合、同条項によって処罰され得ることになります。消費者側も、この規制を知っていながら執拗に飲食店側に牛レバーの生食を求めた場合、上記の規定の違反を故意にそそのかせたとして、場合によっては、食品衛生法第72条1項違反の教唆犯の罪に問われるおそれがあります。」

今後、法の下に生レバーを食べることは断念せざるをえないのだろうか。店や客側から規制に対抗する術はないのか、再度清水弁護士に聞いた。

「結論からいうと、目立つ真似はしないことを強くお薦めします。確かに厚生労働省は、『牛レバーを安全に生で食べるための有効な予防対策は見いだせていない』と留保をつけ、あたかも有効な予防対策が見いだせれば、規制は解除され得るかのような言い方をしています。」

「しかし今回の規制は、牛レバーの生食によって、尊い人命が奪われたという悲劇に端を発して行われたものであり、厚生労働省としてもその違反には、極めて厳しい態度で臨むことが容易に推測されます。違反には懲役刑も規定されていますし、いくら生レバーが好きとはいえ、積極的にその提供を求め、法を犯すことは、極めてリスクが高すぎるといえるでしょう。」

生レバー好きといえども、今回の規制がある以上、やはり今後の生食は断念せざるを得ないようだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

清水 琢麿
清水 琢麿(しみず たくま)弁護士 法律事務所イオタ
法律事務所イオタ パートナー 第二東京弁護士会 三田法曹会幹事、慶應義塾大学法学部非常勤講師(民法)

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