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「連載取り消し」から「単行本発売」へ――漫画家やまもとありささんに心境を聞く
初単行本「あいこのまーちゃん」と漫画家やまもとありささん

「連載取り消し」から「単行本発売」へ――漫画家やまもとありささんに心境を聞く

若手の女性漫画家、やまもとありささんの連載マンガ『あいこのまーちゃん』が昨年6月、ウェブで公開が始まる2日前に取り消され、大きな話題になった。作品を発行してくれる出版社が見つからないなか、クラウドファンディングで資金を集めて「電子書籍化」に成功。さらに、一連の騒動から約10カ月たった4月下旬、作品はついに、別の出版社から「紙の単行本」として出版された。

やまもとさんは昨年6月、コアミックス社が編集業務を行っている「WEBコミックぜにょん」で、マンガの連載を開始する予定だった。ウェブでの連載を終えた後は、出版社から単行本として発売することも予定されていた。ところが、コアミックス社の編集部から連載開始のわずか2日前に「連載を取り消す」という連絡を受けた。

『あいこのまーちゃん』は、初潮期を迎えた女子中学生が、言葉を話すようになった自身の女性器「まーちゃん」とともに成長していく姿を描くものだ。連載が取りやめになったのは、出版社が「有害図書」にあたる可能性があると判断したためだったという。

弁護士ドットコムニュースは昨年7月、「『業界の空気が変わってほしい』連載を取り消された漫画家・やまもとありささんに聞く」と題したやまもとさんのインタビュー記事を掲載した。このインタビューで、やまもとさんは、表現活動の自主規制が強まっていることや、口約束が中心で契約書を交わさない出版業界の体質などについて、言及していた。

連載取り消しから単行本の発売まで、どのような思いで作品を作ってきたのか。単行本の発売当日、やまもとさんに再び話を聞いた。

●クラウドファンディングで「制作資金145万円」を集める

――連載が取り消されてから、出版されるまで、どんなことがあったのですか。

連載取り消しがヤフーニュースなどを通じて広く知られたことで、いくつか他の出版社から声がかかったんです。でも結局、連載や出版にまで至りませんでした。編集者は気に入ってくれたのですが、「内容的に厳しい」「女子中学生が足を広げるというのは、ちょっとやばいんじゃないか」と会社でストップがかかったみたいです。

その後も何社か検討してくれたんですが、その返事を待つよりも、とにかく読んでもらいたいし、続きを描きたいと思ってました。そこで、「漫画onWeb」(誰でも作品を公開、販売できる電子書籍サイト)に第1話を無料で掲載することにしました。すごく反響があって、38万回くらい読まれました。

――どんな反響でしたか。

『あいこのまーちゃん』はざっくり言えば、「女子中学生が初潮を迎え、自分の性器と会話する」という内容なんです。読者からは、「不快だった」「気持ち悪い」「女が性器を描くな」みたいな批判が多く寄せられました。そこで、普通に連載や出版を目指すのは、やはり難しいのかなと思いました。

そんなとき、「漫画onWeb」の人から「自分で電子書籍を出して、電子書籍サイトで売るという方法もあるよ」と教えられました。どんな形でも世に出したくて、それを目指して、とにかく続きを描くことにしました。

――執筆期間中、製作費や生活費はどう工面していたのですか。

連載が取り消された時点で描きあがっていた『あいこのまーちゃん』の5話分の原稿料はもらっていたのですが、それでは足りませんでした。知り合いの漫画家の助言で、マンガをはじめとしたアートを支援するクラウドファンディングサイト「FUNDIY(ファンディー)」(https://fundiy.jp/project/Ot2clMRky7yqfhVN)で、電子書籍化のためのお金を集めました。100万円を目標に、昨年8月から10月まで募集しました。

制作資金を募集しながら原稿をかいたり、呼びかけるために作画配信したり、ツイッターでも告知したり、いろいろとプロモーション活動をしました。その結果、150人が出資してくれて、145万円が集まりました。

●「沢田マンション」から12日間の漫画制作をネット中継

――クラウドファンディングの成功を経て、単行本の出版はいつ決まったのですか。

最終的に決まったのは、去年の11月です。

連載が取り消された直後から熱心に声をかけてくれた編集者がいたのですが、そのときは出版社のOKが出ませんでした。

しばらくして、その方が、今回単行本を出版した笠倉出版に転職したんです。彼は、笠倉出版に移ったあとも、声をかけてくれて。笠倉出版の社長も「回収騒ぎになっても、有害図書指定されても構わない。出そう」と言ってくれたんです。

――内容について、出版社から何か指示はありましたか。

何もありません。編集者の意見が入ることもありませんでした。全部、自分がやりたいようにやれました。

――出版が決まった後は、ひたすらマンガの続きを描いていたのですか。

12月に「沢田マンション」(高知県にある集合住宅。増築を重ねた独特の外観から、「日本の九龍城」とも呼ばれる)の貸ギャラリーで、「273時間漫画制作配信展」という個展を開きました。ギャラリーに泊まって、漫画を描き、生活している様子を、12日間ぶっ通しでユーストリームでネット中継したんです。

昼間は、お客さんが来て、話をしたり、一緒に落書きしたり、夜はユーストの視聴者とチャットで話をしたりして、とても楽しかったです。

スケジュール的に厳しいかなとも思っていたのですが、1年以上前からその日程でギャラリーを押さえていたので、実行しました。やってよかったです。

●レールから外れて「こっちの道もあった」と気づいた

――マンガはいつ完成したのですか。

今年の2月末くらいです。全13話です。2話目以降は、クラウドファンディングで出資してくれた人に、1話できあがるごとにデータで送っていました。

3月と4月は編集者やデザイナーとすり合わせながら、単行本のデザインやページの紙質を決めたり、プロモーションのために公式サイトを作ったりしていました。

――作品が単行本という形になったことについて、どう感じていますか。

単行本を出せて、本当にうれしいし、今も信じられない気持ちです。でも、この1年で「紙の形で本にする」ということに、以前ほど、こだわりがなくなりました。

それよりも、表現の場があることが大事だなと。描いて、発表できればいいと考えるようになりました。以前は、出版社の編集者に売り込んで、雑誌に載せてもらうということに価値があると思っていました。本にすることに価値があると思っていました。

もちろん、それはすごいことです。でも、それだけにこだわって、まわりの顔色をうかがって、マンガを描いていたところがあった。クラウドファンディングをしたことや、ウェブで活躍している作家さんの活動をみて、自分の視野がすごく狭かったとことに気づきました。

「出版社の会議で通って、連載」というレールしか見えていなくて、そのレールから外れたときに、「あ、こっちの道もあったんだ」と気づいたんです。自由に描けるなら、単行本じゃなくてもいい。今はいろんなマンガの発表の仕方がある、と。

出版社を通しての活動は、もちろんこれからも続けていきたいです。でも、そこだけにこだわらず、ネットで発表する可能性をもっと試していこうと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

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