契約や債権の分野で約120年ぶりの大幅な変更となる「民法改正」の要綱がまとまり、3月下旬にも改正案が国会に提出される。目玉の一つとして注目されるのが、マンションやアパートを借りる際の「敷金」に関する項目だ。
現行法では、退去時の敷金返還ルールが明確に規定されていない。このため、返還をめぐる借主と貸主との間のトラブルが多かった。借り手側が不利益を被ったとして、訴訟に踏み切るケースも少なくなかった。おまけに、商習慣の違いで、関東では「敷金」と呼ぶものが、関西などでは「保証金」という呼び名となるなど、仕組みが分かりにくかった。
今回の法改正で、どのように変更されるのだろうか。不動産にくわしい辻角智之弁護士に聞いた。
●関東流の「敷金」という呼び名を明記
「今回の民法改正で、敷金については、ふたつの大きな変化があります。一つ目は呼び名。二つ目は返還ルールについてです」
このように辻角弁護士は切り出した。
「敷金については、関東圏と関西圏で呼び名が異なっていました。関東圏の『敷金・礼金』システムは、関西圏では『保証金・敷引き』という表現です。敷金が保証金、礼金が敷引きを意味すると考えれば、理解しやすいでしょうか。
今回の改正案では、『敷金』を明確に定義して、その中に『いかなる名義をもってするかを問わず』との文言を付けています。このため、関西圏の『保証金』という概念も、法律上は『敷金』として定義されることになります。
今後は、関西圏でも、『保証金』から『敷金』という表記に移行していくと思われます。法律上の『敷金』との区別を明確にするため、『敷引き』という表現も変更されていくのではないでしょうか」
●経年変化の修復費は「貸主」の負担
関東から関西、またはその逆の引っ越しをする転勤族には歓迎したい話だ。では、「敷金返還ルール」のほうは、どうなるのだろうか。
「トラブルの多かった敷金返還(原状回復)については、ルールが明記されました。もともと、借主は、賃貸用不動産を受け取った後に損傷した部分を、原状に復する義務を負っています。借主は退去するとき、損傷部分を元に戻す修復費として、敷金からいくらかを支払う必要があります。
これまでの判例理論の蓄積では、借主が責任を持つ『損傷』については、時間の経過による劣化、つまり『経年変化』などは含まれないことになっていました。しかし、経年変化の分も修復費に含める貸主がいて、トラブルが起きていました。
そこで、今回の改正案では、経年変化を除くことがルールとして明記されました。これまで裁判にまで発展していた敷金返還に関するトラブルも、減っていくと思います」
辻角弁護士はこのように話していた。