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裁判員裁判の死刑判決「破棄」が確定――裁判に「市民参加」の意味はあるのか?
裁判員裁判が下した死刑判決の「破棄」が、最高裁判所の決定で確定した。

裁判員裁判の死刑判決「破棄」が確定――裁判に「市民参加」の意味はあるのか?

1審の「裁判員裁判」で死刑判決を受けた被告人に、2審が「無期懲役」の判決を出していた2つの裁判で、最高裁第二小法廷は2月3日、それぞれの上告を棄却する決定を下した。両裁判で「無期懲役」の判決が確定することになった。

それぞれの決定で最高裁は、1審判決の判断に「疑問がある」と指摘。どちらのケースにも計画性がなかった点を強調し、死刑が「やむを得ない事案であるとは言いがたい」として、高裁判決を支持した。

市民参加による「裁判員裁判」の結論を、プロ裁判官が覆し、最高裁もそれを支持した格好になったため、ネットでは「判例通りの判決下すことしかできないんなら最初から裁判員裁判なんかやるなよアホ臭い」など、裁判員裁判の制度そのものについて、疑問を投げかける反応があいついだ。

今回の決定で最高裁は、死刑を適用するかどうかの判断について「慎重に行われるべきだ」「公平性を確保する必要がある」と指摘。そのためには積み重なった裁判例を検討し、「それを出発点として議論することが不可欠」としているが・・・。

ネットでのこうした声を弁護士はどう受け止めるだろうか。刑事弁護を数多く手がける村木一郎弁護士に聞いた。

●「突拍子もない判断」は許されない

「私は、今回の最高裁の判断は妥当なものだと受けとめています」

村木弁護士はこう切り出した。なぜだろうか。

「裁判員裁判も国の司法制度ですから、突拍子もない判断が許されないのは当然です。たとえ、裁判員が加わった判断であっても、論理則や経験則に反する事実認定は、変更されるべきです」

たとえば、男女がラブホテルに出入りする写真は「不倫」の証拠となる――。裁判では、そんな経験則に基づいた事実認定が行われている。もし場当たり的な事実認定が認められるようになったら、裁判は一貫性を保つのが難しくなるだろう。

「同じことが『量刑判断』でも言えます。一定の幅から逸脱した量刑判断は、特段の理由を見いだせない限り、公平性の観点から破棄を免れないでしょう。

殊に、死刑にすべきかどうかという究極の量刑判断においては『公平性の確保』が強く求められてしかるべきです」

●「盲目的に先例に従え」という意味ではない

しかし、先例の枠に縛られるなら、何のための裁判員裁判なのかという批判もありそうだ。こうした疑問について、村木弁護士は次のように説明する。

「これは、盲目的に先例に従え、という意味ではありません。

最高裁決定の補足意見で、千葉勝美裁判官は、このことを的確に説いています。

『(最高裁の)法廷意見は、死刑の選択が問題になった裁判例の集積の中に見いだされるいわば「量刑判断の本質」を、裁判体全体の共通認識とした上で評議を進めることを求めているのであって、決して従前の裁判例を墨守するべきであるとしているのではないのである』」

これまでの裁判で積み重ねられてきた本質部分を「共通認識」として、下敷きにして議論すべきという話で、「問答無用で従え」というような、単純な話ではないわけだ。

●本質的に「死刑は重すぎる」事例だった

「今回、死刑を破棄した東京高裁も、それを認めた最高裁も、『被害者が1人だから死刑にはしない』というような、単純な判断をしているわけではありません。

むしろ、具体的な事案を前にして、この『共通認識』に基づいて総合判断した結果、どうしても避けられないというのであれば、『被害者が1人でも死刑』という判断を許容しているとみるべきです。

つまり、今回の二つの事案は、『量刑判断の本質』を踏まえた総合判断の結果、死刑選択は重すぎるとしたものでしょう」

死刑を適用するかどうかを決める裁判員たちは、そのように一筋縄ではいかない、非常にシビアな判断が要求されているわけだ。村木弁護士は「私は、国民の司法参加を進める上で、死刑そのものを早急に廃止すべきであると考えます」とつけ加えていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

村木 一郎
村木 一郎(むらき いちろう)弁護士 彩の街法律事務所
裁判員裁判を中心に刑事弁護専門。これまでに担当した事件として、埼玉愛犬家連続殺人事件、本庄保険金連続殺人事件、ドン・キホーテ連続放火事件、元厚労省事務次官連続殺人事件、オウム真理教逃亡犯菊地直子事件など

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