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<美濃加茂市長事件>「作り上げられた犯罪」 最終弁論であらためて「無罪」主張
最終弁論公判に臨む藤井浩人・美濃加茂市長(右)

<美濃加茂市長事件>「作り上げられた犯罪」 最終弁論であらためて「無罪」主張

岐阜県美濃加茂市のプール浄化設備導入をめぐって賄賂を受け取ったとして、事前収賄罪などの罪に問われている藤井浩人・美濃加茂市長の最終弁論公判が12月24日、名古屋地裁で開かれた。弁護側は「本件はすべてが作り上げられた犯罪だ」と無罪を主張し、藤井市長も「逮捕事実は一切ないことを断言する」と意見陳述した。30万円の現金授受の有無をめぐって検察側と弁護側が真っ向から対立したまま、裁判は結審した。判決は来年3月5日に言い渡される。(ジャーナリスト/関口威人)

●中林社長と検察官の「特異な関係」

検察側の「証拠」は、実質的に、贈賄側である浄水設備会社「水源」の中林正善社長の供述しかない――約2時間半に渡る弁論で、弁護側はそう指摘したうえで、中林供述の「信用性」を全面的に否定した。

弁護側によれば、それは「一般的な意味での供述の信用性の評価とは性格を異にする」ものだという。中林社長が総額4億円近くにのぼる融資詐欺事件の処罰を少しでも軽くするため、藤井市長へ賄賂を渡したという話をでっち上げ、それを捜査機関側が容認して、両者一体となって犯罪事実を作り上げた異常事態なのだという。

検察側が論告公判で「あり得ない」と否定した「ヤミ司法取引」の疑いを、弁護側はあらためて主張した。

「弁護人の告発で4000万円分の詐欺事件は追起訴されたが、さらに5700万円分の告発は『嫌疑不十分』として不起訴とした。これは融資詐欺の起訴を最小限にとどめる見返りに、贈賄自白を維持し、藤井市長公判での検察官立証に協力するとの約束があったからとしか考えられない」

その疑念は公判を通じて深まったと、弁護側は指摘する。中林社長と検察側が綿密な打ち合わせをし、弁護人が請求した再尋問のために「6、7回も」接触するなど「極めて特異な関係」が明らかになったという。

また、今回は「一般の刑事事件とは異なり、愛知県警、岐阜県警の合同捜査本部が設置され、そこに名古屋地検が深く関わって捜査が進められてきた」と、捜査体制の構造にも言及。その結果として、具体的な成果を上げることが至上命題となり、藤井市長らに対する取調官の言動が「結果を出したいとの焦燥感から厳しいものとなったことは容易に想像できる」と指摘した。

●中林供述の「変遷」の不自然さを指摘

現金授受の場面について、中林社長の供述内容は当初、「藤井市長と2人きりだった」というものだった。しかしその後、「2人の共通の知人であるT氏が同席していた」という内容に変遷している。

この変化に関する中林社長の説明は不自然だと、弁護側は主張。1回目の証人尋問で、中林社長は「クレジットカードのサインとかで思い出した」などと不明瞭な回答をしていたのに、再尋問では「検察官が用意した伝票を指さした」などと断定的に証言したのはおかしいと強調した。

その後の論告公判で、検察側は、この伝票(ジャーナル)を決定的な証拠のように示した。しかし弁護側によれば、これは「再尋問において突然出てきたもの」だという。この日の弁論で、弁護側は「ジャーナルが(中林社長によって)特定された時期も特定の経過もまったく不明」であるとして、客観的な裏付け証拠とは言えないと主張した。

そのうえで、検察側が重要証人の「供述の変遷」を明確な証拠や記録にとどめていないと指摘。検察側の姿勢について「職責を放棄しているに等しい」「捜査のずさんさを糊塗するために苦し紛れに暴論を持ち出している」などと批判した。

また、中林社長から藤井市長へ「現金を渡す口実として」手渡されたと、検察が主張している「浄水プラントの資料」についても、弁護側は反論。その資料のなかには中林社長にとって重要と思われるメモ書きなどが入っていたため、単に「口実」として渡したとする検察の主張はおかしいと指摘した。

さらに、市長選出馬の決断時期や市長が普段使う言葉、メールの文言などについても、中林社長と検察側の主張と実際との矛盾点を示した。

●「検察の主張は完全に崩壊している」

検察側が「議員の職務権限や影響力を行使した」と糾弾した市議会での質問については、浄水プラントでなく一般的な備蓄品について言及していることは客観的に明らかだ、と弁護側は主張。検察側が言葉の一部だけを抜き出して「事実を歪曲している」と非難した。

さらに、中林社長の依頼は「とにかく浄水プラントを美濃加茂市に導入してほしい」といった漠然としたものであり、あっせん利得処罰法違反などについての過去の判例と照らしても、犯罪の構成要件となる特定性や具体性がなく、検察側の主張は「完全に崩壊している」と指摘した。

「こうして作り上げられた現職市長の収賄事件である本件に対して、裁判所の公正な判断が下され、被告人に対して無罪の判決が言い渡されることを確信するものである」

このように最後の言葉を述べて、弁護側は最終弁論を終えた。

(弁護士ドットコムニュース)

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