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いじめられて不登校になった小学生――加害児童を「転校」させることはできないか?
通学できないばかりか精神科にも通うとは、よほどのダメージを受けたのだろう

いじめられて不登校になった小学生――加害児童を「転校」させることはできないか?

我が子がいじめられて不登校になったので、いじめた側に責任を取ってもらいたい——。弁護士ドットコムの法律相談に、こんな質問が寄せられている。

相談者の息子は、小学校で同級生から仲間外れにされ、ネットに「お前はクラス中から嫌われている」と書かれたり、教科書を投げられたりしたという。そのため、1カ月ほど学校に行けず、精神科にも通うほどのダメージを受けた。いじめの加害者は、母親と教師に連れられて相談者の自宅を訪れ、母親とともに謝罪した。しかし、謝罪はこの一度きり。誠意の感じられない態度に、相談者の怒りは収まらなかった様子だ。

相談者は「いじめた子には学校に来ないでほしい。同じ目に合わせてやりたい」と書き込んでいる。当の息子も、教師から「どうすれば学校に来られるかな」と聞かれ、「いじめた子が転校すれば」と答えているという。このようなケースで、いじめの加害者に転校してもらうという要求をすることはできるだろうか。学校教育の問題にくわしい小池拓也弁護士に聞いた。

●転校を求めることはできない

「残念ながら、いじめられた児童の側に、いじめた児童の転校を求めるような権利はないといってよいでしょう。権利として認められているのは、原則として民事上の損害賠償請求のみです。つまり、お金を請求できるだけなのです」

では、せめて、いじめの加害者の退学や停学処分を求めることはできるだろうか。

「校長あるいは教育委員会に、いじめた子に対する処分を行うように働きかけることが考えられますね。いじめの程度がひどく、改善の見込みがないなど、『排除することが教育上やむをえない』と認められる場合なら、校長は、いじめた児童を退学させることができます(学校教育法施行規則第26条)。ただし、これは小中学校の場合、私立と国立だけです」

では、公立の小中学校はどうだろう。

「公立の小中学校には退学の制度はありません。ただ、その児童がいじめを繰り返し、他の児童の教育に妨げがある場合、教育委員会は学校教育法第35条に基づいて、保護者に対して児童の出席停止を命ずることができます」

●学校側とよく話し合いを

では、今回のようなケースであれば、加害者の退学を求めることができるだろうか。

「教師から注意を受けた後、いじめが続いていないなら、客観的には『排除が教育上やむをえない』とか『他の児童の教育に妨げがある』とはいいにくい。ですから、退学や出席停止は難しいでしょうね」

いじめた子の転校を求めて、裁判に訴えることは可能だろうか。

「理屈の上では『人格権侵害禁止を求める仮処分』という手続を用いて、転校を求めることも考えられます。しかし、現実的には難しいでしょう。教育問題ですし、裁判所は『保全の必要性を認めることはできない』という理由で申立を却下するはずです」

いじめた子の退学や出席停止が望めないなら、このまま不登校を続けるしかないのだろうか。

「いじめられた子自身が転校する場合、その転校がやむをえないと認められれば、転校費用を賠償金に盛り込むことも可能です。しかし、転校はしたくないとのことですし、何より損害賠償請求は、いじめの真の解決にはなりません。

いじめた子の転校や退学が、登校に至る唯一の手段とは限りませんから、現実にとりうる手段について、学校側ともう一度、話し合うのがよいと思います。学校側との話し合いの前に、各弁護士会の『子どもの人権相談』に行ってみる等、子どもの問題を扱う弁護士に相談するのも一つの手でしょう」

いじめの一番の解決策は、関係者すべてが、被害者の気持ちに気付き、寄り添うことだろう。ただ、無関心な相手との話し合いはしんどいものだ。解決のため、弁護士に相談して糸口を探るのも良いだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

小池 拓也
小池 拓也(こいけ たくや)弁護士 湘南合同法律事務所
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。神奈川県 弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。

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