「私は11月1日に死にます」。動画共有サイト「YouTube」に投稿した動画で、自ら死を選ぶと告白し、その通りに29歳で命を絶った米国人女性、ブリタニー・メイナードさん。彼女の行動は世界中で大きな議論を呼んだ。
メイナードさんは、今年1月に末期の悪性脳腫瘍と診断され、医師から余命半年と宣告された。治療法も無く、激しい頭痛に苦しめられるなかで、メイナードさんは「尊厳死」を決意。家族とともに、尊厳死が法律で認められているオレゴン州に引っ越した。
オレゴン州の法律では、余命6か月未満で責任能力のある末期患者が、医師から処方された薬を自分で投与することで死を選択することを認めている。メイナードさんは、予告していた11月1日に、自宅で家族に見守られる中、医師が処方した薬を服用して亡くなった。
メイナードさんの告白は、日本でも多くの議論を巻き起こした。日本でも不治の病に苦しむ人は、メイナードさんのような方法で、死を選ぶことが可能だろうか。終末医療の問題にくわしい佐々木泉顕弁護士に聞いた。
●医師は「自殺幇助罪」になる可能性がある
「医師が積極的安楽死に関与したケースの裁判として、日本では1995年3月28日に横浜地裁が下した『東海大安楽死事件』の判決があります。この判決では、死期を早める措置である安楽死を、『積極的安楽死』と『間接的安楽死』、『消極的安楽死』の3つに分類しています。
積極的安楽死は、耐え難い苦痛を伴う疾患の患者を、その要求に基づいて死に至らしめることです。
今回、メイナードさんの事例は、医師が死ぬために薬物を処方し、それを患者が使用したというケースですから、この『積極的安楽死』にあたるケースです」
日本でも、許されるのだろうか?
「もしこれが日本だったなら、薬物を処方した医師は『自殺を助けた』として、刑法202条の自殺幇助罪に問われることになるでしょう。
さきの判決によれば、医師の責任が否定されるためには、『患者に耐え難い肉体的苦痛が存在すること』や『患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くしほかに代替手段がないこと』などが必要です。
もし、今回の事例が日本で実施されたとすれば、医師は間違いなく有罪となるでしょう」
日本では、安楽死は一切、認められないのだろうか?
「末期患者の延命治療を中止したり、または、治療をしないことで死期を早めるという『消極的安楽死』や、末期患者の苦痛を和らげる治療を行ったことによって、結果的に患者の死期を早めてしまう『間接的安楽死』については、積極的安楽死とは別だと考えられています。
なお日本では、一般に『消極的安楽死』のことを尊厳死と呼んでいます。アメリカとは言葉の定義が違います
これらの消極的・間接的安楽死については、厚労省が2007年に出した終末医療についてのガイドラインでも触れられており、日本でも行われていますが、いまのところ法的な見解は統一されていませんし、法制化もされていません」
●法制化がされていない、ということは・・・
「したがって、安楽死・尊厳死に関与した医師は、たとえガイドライン通りに対処したとしても、刑事責任を問われる可能性が否定できません。
たとえば、2009年に最高裁判決が出た『川崎協同病院事件』の医師のように、殺人罪等の刑事責任を問われる可能性があるのが現状です」
佐々木弁護士はこのように述べていた。
簡単に結論が出る問題ではないだろうが、しっかりと議論をして、法律の整備を進めていくべき問題だと言えそうだ。