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「全社メール」で部下をしかり飛ばす上司 「メールによるパワハラ」は認められるか?

「全社メール」で部下をしかり飛ばす上司 「メールによるパワハラ」は認められるか?

職場の権力を利用して上司が部下に嫌がらせをする「パワハラ」という言葉は、ひんぱんにニュースに登場するなど社会にすっかり浸透したが、パワハラにもいろいろな形態がある。たとえば、教育産業の某企業では、メールによるパワハラが行われているという。

その社員によると、ある上司は部下に対する厳しい叱責の言葉をつらねたメールを全社員にわかるような形で流すのだという。つまり、その部下を激しくしかりつ けるメールを送るときに、わざわざ全社員に流れるメールアドレスをCCに入れて送信するのだ。しかも、部下が反省の意を示すメールを上司に送るときも、全社員にCCをつけたままメールしなくてはならないそうだ。

これにより、その部下は全社員の見ている前でしかり飛ばされているのと同じことになる。このようなメールを送られた部下は、「心をひどく傷つけられた」として、その上司や会社に対して慰謝料を請求できるだろうか。労働問題に詳しい秋山直人弁護士に聞いた。

●部下を注意するとき、「全社メール」にする必要があるか

まず、秋山弁護士によると、「パワハラ」という言葉は「法律で明確に定義されている法律用語ではありません」という。「パワハラ」というのはあくまでも、法律の専門家ではない人がつかう「俗称」というわけだ。

法律的には、ちょっと難しい言葉になるが、「不法行為」や「安全配慮義務違反(職場環境配慮義務違反)」にあたるかどうかが問題となり、それによって、「上司や会社に損害賠償責任が発生するかどうかを検討する必要があります」。

では、今回のような「全社メール」でしかりつけられた場合は、「不法行為」や「安全配慮義務違反」にあたるのだろうか。

秋山弁護士は「会社の規模やこのようなメールに至る経緯にもよりますが」と断ったうえで、次のように述べる。

「上司が部下に対して注意・指導をするとき、CCに『全社員に流れるメールアドレス』を入れることや、部下からの返信にも全社員あてのCCをつけさせることに、必要性・合理性・相当性は認められにくいように思われます」

●「全社メールによる叱責」は「いじめ的な色彩」が強い

したがって、「全社メールによる叱責」は、「部下に対する注意・指導として、必要かつ相当な範囲を超えて、 懲罰的・いじめ的な色彩が強い」といえ、「不法行為や安全配慮義務違反に基づく慰謝料等の請求が認められる可能性が出てくる」という。

そして、「メールの内容が業務上の注意・指導にとどまらず,人格攻撃に渡っているような場合にも、法的責任が認められやすくなるでしょう」と秋山弁護士は説明している。

つまり、上司が「全社メール」で部下の人格攻撃をしているような場合は、慰謝料の請求が認められる可能性が大きいというわけだ。メールは便利なツールだが、使い方を間違えると人の心を大きく傷つけることもあるので、注意して使いたいものだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

秋山 直人
秋山 直人(あきやま なおと)弁護士 秋山法律事務所
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルを中心に業務を行っている。

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