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京大で学生と警官がトラブル 「捜査のため」でも大学に勝手に入ったらダメなのか?
京都大学(編集部撮影)

京大で学生と警官がトラブル 「捜査のため」でも大学に勝手に入ったらダメなのか?

京都大学で11月4日、京都府警の「私服警官」が大学構内に無断で立ち入ったとして、同大学の学生とみられる男性らに取り囲まれ、教室に連れていかれる騒ぎがあった。京大は、大学と京都府警との間の取り決めに反するとして、「事前通告なしに警察官が立ち入ることは誠に遺憾」とコメントを発表した。

報道によると、キャンパスでは当時、東京都内のデモに参加した京大生が公務執行妨害容疑で逮捕されたことに対する抗議活動が行われていたようだ。取り囲まれた警察官は、過激派などの捜査を担当する京都府警警備二課に所属していたという。

大学は、学生以外のさまざまな人が訪れることもあるはずだ。警察官が立ち入ったことが、なぜ、ここまで大騒ぎになったのだろうか。大学の敷地は、一般の社会と違う特別なルールがあるのだろうか。憲法問題にくわしい林朋寛弁護士に聞いた。

●大学には「自治」が保障されている

「捜査目的だからといって、警察官がどこにでも立ち入ることができるわけではありません」

このように林弁護士は切り出した。大学は、捜査目的でも入ることが許されないような特別な場所なのだろうか?

「今回、問題となっているのは『大学の自治』の侵害です。『大学の自治』とは、学問の自由(憲法23条)の内容の一つです。

具体的には、大学内の人事や施設・学生の管理などについて、国家権力からの干渉を排除するということです。

『大学の自治』が認められている背景には、大学の研究に国家が干渉してきた歴史があります」

国家は、大学に全く干渉できないということだろうか?

「いえ、そういうわけではありません。警察官が犯罪捜査のため、適法な手続によって、学内に立ち入ることは許されます。

しかし、今回のような隠密の警備公安活動等は、自由な研究・思索をする大学という場を壊す危険が大きいので問題です」

●「東大ポポロ事件」とは?

ネット上では、1952年に東京大学で起きた「東大ポポロ事件」との類似性を指摘し、今回の騒ぎを「京大ポポロ事件」と呼ぶ声もあった。これは、どんな事件だったのだろうか?

「東大の学生団体『ポポロ劇団』が教室で行った演劇発表会の最中、学生が観客の中に紛れていた私服警官を発見しました。

その際、私服警官に対して暴行をしたとして、学生が『暴力行為等処罰に関する法律』違反で起訴されたという事案です」

裁判では、どんな判決が出たのだろうか?

「地裁・高裁では、学生の行動が『大学の自治』への侵害に対する防止手段であるとして、無罪判決が下されました。

しかし、最高裁は、その演劇が実社会の政治的・社会的活動であり、公開の集会に準ずるとしました。つまり、大学の中で行われていても、その演劇の発表会は『大学の自治』の対象外としたわけです。

結局、無罪判決は破棄され、差し戻し審で学生の有罪が確定しました」

●「大学の自治」の侵害とはいえない?

こうした抗議活動も、最高裁の理屈だと、「大学の自治」の対象外とされてしまうのだろうか。

「今回の事件も、最高裁判決のように限定的に考えてしまうと、『大学の自治』の侵害とはいえないかもしれません。

しかし、この最高裁判決に対しては、警察の情報収集活動が『大学の自治』を害する危険を軽視している、などの批判があります。

また、警官は、京大と京都府警の協定に違反して、大学の管理下であるキャンパス内に立ち入ったとのことです。警官による建造物侵入罪の問題等は残ると思います」

林弁護士はこのように指摘していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

林 朋寛
林 朋寛(はやし ともひろ)弁護士 北海道コンテンツ法律事務所
北海道江別市出身。札幌南高、大阪大学卒。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。平成17年10月弁護士登録(東京弁護士会)。沖縄弁護士会を経て、平成28年から札幌弁護士会所属。 居住地(選挙区)で国民の一票の価値が異なる問題についての選挙無効訴訟に関与している。

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