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裁判員に配慮「遺体イラスト」証拠採用せず――刑事裁判の判断に悪影響はないか?
裁判員裁判では、被害者と加害者双方にとって妥当な判断が求められる。

裁判員に配慮「遺体イラスト」証拠採用せず――刑事裁判の判断に悪影響はないか?

息子が母親に暴力をふるって死亡させた事件の刑事裁判で、東京地裁は、裁判員への心理的負担を考慮し、被害者の「遺体のイラスト」を証拠として採用しなかった。その事件の判決が10月下旬に下され、被告人に懲役3年の実刑判決が言い渡された。

●遺体の「イラスト」が証拠として認められなかった

この事件は、無職の男性(39)が衰弱した母親(64)の背中を蹴るなどの暴行を加え、呼吸障害で死亡させたとして、傷害致死罪で起訴された事案だ。被告人は起訴事実を認めており、争点は犯行の残虐性に絞られていた。

犯行の残虐性を立証したい検察は、裁判員の精神的な負担を考慮して、遺体の「写真」ではなく「イラスト」を証拠として請求した。しかし、東京地裁は「イラスト」ですら裁判員の負担が大きいとして認めず、証人尋問などで代替するように求めた。

たしかに、ふだん遺体など見たことがない一般人からすれば、証拠である被害者の遺体写真はかなりショッキングだろう。イラストでも、「見たくない」と思う人がいてもおかしくない。ただ、一方で、遺体の写真やイラストは、「何が起こったのか」を明らかにする重要な証拠のはずだ。

裁判員への配慮は大切だが、遺体の写真やイラストを証拠として認めないことは、裁判に影響しないのだろうか。刑事手続きにくわしい高木良平弁護士に聞いた。

●イラストで「何を証明したいのか」

「遺体の写真やイラストを証拠とすべきかどうかは、結局『それで何を証明したいのか』という点によります。

言い換えれば、『裁判員の方々にトラウマにもなりかねないほどのストレスを与えても、やむを得ないと言えるほどの必要性があるか』ということです」

遺体の写真やイラストは、裁判において決定的に重要な証拠なのだろうか。

「たとえば、被告人が犯行を否認している殺人事件であれば、そうである可能性があります。

こうした事件の裁判で、殺害方法から真犯人を特定するために、遺体の受傷部位を分析することが必要不可欠といった場合、遺体の『写真』は、証拠として決定的に重要と言えるでしょう。

この場合『イラスト』では、意味がありません。イラストでは写真ほどの正確性がないからです。『イラスト』が不正確であるがゆえに、冤罪が生まれるおそれすらあります」

●「犯行の残虐性」を立証したいケース

今回の裁判は「イラスト」が重要な証拠になるケースなのだろうか。

「今回の事件は、自白事件で、犯行の残虐性を立証したいというケースです。

その点を考えれば、裁判員の方々にトラウマにもなりかねないほどのストレスを与えてもやむを得ないと言えるほど、遺体の『写真』や『イラスト』を証拠とする必要性があるとはいえないでしょう。

尋問等の『言葉による立証』よりも、写真やイラストのような『視覚的な証拠』のほうが、より残虐性が伝わりやすいとうのはわかります。

しかし、それが決定的に重要とまでは言えないでしょう。

そう考えると、遺体のイラストを証拠とするのが適している場合というのは、ケースが少ないように思います」

高木弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高木 良平
高木 良平(たかき りょうへい)弁護士 MJ法律事務所
1974年、神奈川県生まれ。2004年に司法試験合格し、2006年桜丘法律事務所に入所。2015年8月1日に独立し「MJ法律事務所」(東京都墨田区)を開設。ボクシングのプロライセンスを取得したこともある(現在は失効)。

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