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<ラーメン店暴行死>「死ぬだろうと思った」と供述したのに「殺人罪」にならないの?
ラーメンは「最後の晩餐」にふさわしいのだろうか

<ラーメン店暴行死>「死ぬだろうと思った」と供述したのに「殺人罪」にならないの?

東京都内のラーメン店で9月に起こった暴行死事件が世間を驚かせた。逮捕・起訴された被告人男性は暴行後、「刑務所に行くから最後の晩餐」とラーメンを注文し、警察官が駆け付けるまで黙々と食べ続けたと報じられ、その異様な光景に注目が集まった。

報道によると、被告人は体重120キロの元ラガーマン。隣の席の男性とトラブルになり、この男性をイスから引き倒し、厚底のブーツで顔や腹を複数回踏みつけたとされる。男性は2日後に死亡した。

東京地検は「殺意が認定できなかった」として、殺人ではなく、傷害致死の罪で起訴した。しかし、被告人が逮捕されたとき、「(被害者が)死ぬだろうと思った」と供述したと報じられていたため、ネット上では「なぜ殺人罪ではないのか?」と疑問の声が上がっている。

法律的には、「死ぬと思った」と言っただけでは、殺意があったと言えないのだろうか。殺意はどのように認定する仕組みになっているのか。刑事事件にくわしい布施正樹弁護士に聞いた。

●供述だけでは判断しない

「殺意があったかどうかというのは、その行為をした人の心の中の問題ですから、これを直接裏づける証拠は、本人の供述以外には存在しません」

それでは、やはり本人の供述がもっとも重要視されるのだろうか。

「いえ、必ずしもそういうわけではありません。

人が死に至るほどの暴行を加えるということは、ある意味、異常な精神状態にあったといえます。

そうであれば、当時の自分の認識を正確に記憶・表現できるとは限りませんし、捜査官に誘導されて真意と異なる供述をしてしまう可能性もあります。

そのため、たとえ行為者が事件後に殺意を認めるような供述をしていたとしても、その供述だけを根拠に、殺意があったと認定されることは、普通ありません」

●「殺意」はどうやって認定する?

では、殺意を認定する際に重視されるポイントは、どんなところだろうか。

「殺意の認定に当たっては、事件の経緯や犯行態様などの『客観的な事情』を総合的に考慮して、その有無を判断するという手法が一般的です。具体的には、以下の4つが重要なポイントであるとされています。

(1)凶器の種類・用法

(2)行為者が攻撃を加えた身体の部位や攻撃の強さ・回数

(3)動機の有無

(4)犯行前後の行動」

今回のケースはどういった事情が重視されたと考えられるだろうか。

「報道によれば、被告人は、被害者の顔面や腹部など、体の重要な部位を繰り返し攻撃していますし、かなり大柄な体格だったようです。自分の攻撃が相手にどの程度ダメージを与えることになるかも十分予想できたことでしょう。

また、暴行の後、重傷を負って倒れ込んだ被害者を放置して飲食を続けたことからも、被害者の生命の危険を意に介していなかった様子が窺われます。

これらの事情を考慮すれば、被告人には被害者に対する殺意――少なくとも、死んでも構わないという『未必の殺意』――があったと認定する余地はあったようにも感じます」

一般論としては、未必の故意があれば、殺人罪が成立する。にもかかわらず傷害致死罪で起訴されたのは・・・。

「被告人が、殺人罪ではなく傷害致死罪で起訴された理由としては、被告人が『凶器を使用していない』という点が、一番大きいのではないかと思われます。

拳銃や鋭利な刃物など、殺傷能力の高い凶器が使用された場合と違って、いわゆる殴る蹴るといった形での暴行の場合は、殺意があったとの認定が難しく、殺人罪の適用は見送られる傾向が強いようです」

布施弁護士はこのように分析していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

布施 正樹
布施 正樹(ふせ まさき)弁護士
横浜弁護士会所属、同会刑事弁護センター運営委員会委員。刑事弁護・少年事件に特に力を入れて取り組む一方、一般民事事件・家事事件等も手がける。現在、他士業と連携した無料メールマガジン( http://www.mag2.com/m/0001640642.html )を発行中。

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