「ふとんがふっとんだ」だけでは済まなかった――。9月28日午後1時50分ごろ、兵庫県加古川市を走る山陽新幹線(西明石・姫路間)の線路上に、白い敷布団(長さ約2メートル、幅約1メートル)が落ちているのが見つかり、新幹線「のぞみ」(乗客約500人)が緊急停止することになった。
報道によると、現場付近のマンション8階に住む男性から「(干していた)布団が飛んだ」と、110番通報があったという。のぞみは150メートル手前で止まったため事故にはならなかったが、結果的に上下線6本が最大19分遅れ、約3100人に影響した。
もし線路に落ちたのが男性の布団だったとしたら、男性は新幹線を止めてしまったことについて、法的な責任を負うのだろうか。阿部泰典弁護士に聞いた。
●布団を干す人の「注意義務」
「マンションのベランダに布団を干す場合、布団が飛んだり落ちたりして第三者に危害を加えないようにする『注意義務』が、干す人にはあります。
結果的に、マンションのベランダに干していた布団が飛んだということは、布団をベランダに固定する方法が甘かった可能性があります。
もしそうだとすれば、男性は『注意義務を怠った』、つまり、男性には過失があるといわざるを得ません。
その場合、鉄道会社に損害が生じていれば、男性はその損害を賠償しなくてはならないでしょう」
●どんな「損害」が生じたか?
損害が生じていれば・・・というのは、どういうことだろうか?
「私が以前、依頼を受けた案件で、参考になる例があります。
その依頼者は数年前、精神的にうつになり、線路内へ侵入して車両と接触事故を起こし、その結果、鉄道会社から損害賠償を請求されました。
鉄道会社の請求書には、損害の項目として、『振替輸送費』、『人件費』、『営業損害費』、『車両損害費』、『施設損害費』、『事故手当て』、『雑費』、『運休費』が挙げられていました。
私の依頼者は、そのうち『振替輸送費』と『人件費』を請求されました」
鉄道会社の請求書のひな形があるということだろう。
●損害は「人件費」ぐらいだった?
それらの項目のなかで、今回のケースにあてはまるものはあるだろうか。
「新幹線が19分遅れたということですが、それで振替輸送は考えにくいでしょうから、『振替輸送費』の損害は発生していないでしょう。
また、新幹線は布団が落ちた場所の150メートル手前で緊急停止しているので、車両には影響ないでしょうから、『車両損害費』も生じていません。
布団が落ちたのでは線路に損傷もないでしょうから、『施設損害費』も生じていません。
強いて言えば、車両が遅れたことにより、職員に残業が生じるなどして、余計な人件費がかかっていた場合には、その『人件費』が損害となるでしょう」
阿部弁護士はこのように分析していた。