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「法律の運用バラバラ、予想外の事態も起きる」弁護士が「中国知財戦略」のコツを指南
西村あさひ法律事務所の野村高志弁護士

「法律の運用バラバラ、予想外の事態も起きる」弁護士が「中国知財戦略」のコツを指南

尖閣諸島の領有問題などで揺れる日中関係、ビジネスの世界ではどう向き合えばいいのか——。中国の法制度にくわしい野村高志弁護士(西村あさひ法律事務所・上海事務所代表)は10月3日、知的財産に関する中国の最新動向を解説した。(具志堅浩二)

講演は、東京理科大学MIPプロフェッショナル講座の一環で、「中国・上海の知財最新事情—今、中国・上海で何が起こっているか—」と題して行われた。

尖閣諸島の領有権をめぐる問題など、昨今の日中関係はギクシャクしており、ビジネスにも影響が出ているものと思いがちだ。しかし、野村弁護士は「尖閣問題がもとで日本の企業が中国から撤退したという話は1件も聞かない」と否定する。実際、上海事務所で扱う事案は、投資やM&Aといった前向きな案件が多いという。

●ある地方では「合法」、別の地方では「違法」に

野村弁護士は、知的財産を扱う前提として、中国社会の法に対する意識や企業の行動様式を紹介。「法整備は進展しているものの、運用はバラバラ」だという。

日本では、ある地域で問題のない行為が別の地域で違法と見なされる、というケースは考えられない。ところが、中国では法律の解釈が地方や役所ごとに異なり、合法・違法の判断が分かれることがあるという。

また、政策を後追いする形で法整備が進む傾向にあり、訴訟は相手にプレッシャーを与える一手段と見なされているそうだ。野村弁護士は、「日本的常識・感覚」で判断しないことの大切さを説いた。

さらに中国企業は、法律を「遵守」するよりも、どう「回避すべき」かを考える傾向にあり、政府の政策動向には敏感であることを解説。知財については、「カネになる」との意識が広まり、特許などの出願数が増加しているものの、時間をかけて知財を育てる意識は希薄だとした。

●「職務発明」、中国では発明者優遇へ

最新動向の1つとして挙げられたのが、企業の従業員が仕事で発明をした「職務発明」の特許問題だ。

日本では従業員の権利で、企業が譲渡を受けるケースがほとんどだ。ただ、経済界などから「職務発明の特許は最初から企業に帰属させるべきだ」との意見も強く、特許庁の特許制度小委員会を中心に、新たなルール作りが進められている。

では、中国はどうなっているのか。野村弁護士は、中国では「職務発明」は企業の権利となる一方、発明した従業員には報奨金を与えることになっていると説明した。さらに現在、中国では、関連法規である「職務発明条例」の改正草案で、発明者の報奨金をより優遇する方向に進みつつあるという。

ただ、野村弁護士はこの草案について、「政府全体の方向性とは異なるかもしれない」と指摘する。現状では、中国の国内企業が報酬そのものを発明者に払わないケースもあるらしく、草案作成担当者の価値観が反映したものと見られるという。

異論もあるが、草案が大幅に変更される見込みは薄いことから、野村弁護士は、中国で知財に関連したビジネスを展開する場合、「条例が正式公布された時のことを踏まえて、社内規定の整備を進めることが必要だ」と主張した。

●地元の原告や被告が有利になる「地方保護主義」

さらに、中国での民事訴訟の特徴の1つとして、野村弁護士は、各裁判所の「地元」の原告・被告が裁判で有利になる「地方保護主義」を挙げた。

中国の場合、裁判官の人事権は地方政府が握っている。このため、裁判官が地元の利益を優先しがちになるものと見られる。

これに対し、野村弁護士は「訴える相手企業の地元ではなく、出来るだけ有利になりそうな、ほかの地方で訴訟を起こすこともある」という。このような戦略的な訴訟プラン・戦術の策定や、中国特有の制度・実務への理解を深めることなどを訴訟のコツとして挙げた。

なお、中国で担当した実際の事案も紹介したが、「損害賠償訴訟の第1回公判審理前、裁判官から電話があり、被告に有利な内容の和解を強く迫られた」など、いずれも日本ではまずあり得ないようなエピソードだった。

それでも、野村弁護士は「その都度苦労するが、どんなに準備しても、だいたいいつも予想外のことが起こる。そこを頑張って何とかするのが面白い」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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