翼を大きく広げて高い空を飛ぶタカ。そんなタカが人を襲う事件が今夏、米国のニューメキシコ州立大学で相次いでいる。
報道によると、大学のキャンパス内にタカの巣があり、タカが巣を守るために歩行者を攻撃するという。擦り傷や切り傷を負うケースがほとんどだが、なかには衝突の勢いで、脳震とう後症候群、めまい、嘔吐などの症状が出た人もいるという。
大学側ではタカの巣の近くに警告サインを設置しているが、このままではさらに被害者が増えてしまうかもしれない。もし日本でもタカの巣が見つかり、歩行者や被害者から大学に対して、「危険だから巣を撤去してほしい」という依頼があった場合、撤去の義務はあるのだろうか。藤田城治弁護士に聞いてみた。
●大学側に撤去する「義務」はあるのか?
「原則としては、野生動物の巣である以上、大学側に巣を撤去する義務はありません」
藤田弁護士はこのように切り出した。なぜ撤去する義務がないのだろうか。
「相手は野生動物ですから、誰かが管理の責任を負うわけではありません。巣も自然物で、たとえば建物や階段のように人工的に作られたものではないため、管理すべき対象にはならないからです。
しかし一方で、大学は利用者の安全を確保する義務があります。万が一、タカがそこに居着いてしまい、被害が多発していることを知りつつ漫然と放置した場合には、大学が責任を問われる可能性があります。
具体的には、ニュースになったアメリカの大学のように、看板などで頭上の注意を呼びかけることは最低限やっておくべきでしょう」
●撤去する際に気をつけることとは?
ちなみに、「巣を撤去することそれ自体は禁止されない」と藤田弁護士は指摘する。大学がタカの巣を危険と判断すれば、撤去もできるということだ。ただしその際、気をつけなければならないことがあるという。
「巣に野生の鳥の卵やヒナがいる場合は、『鳥獣保護法』により、無断で撤去することは禁止されています。
加えてタカなどの猛禽類は、生息数の減少が著しく、種類によっては天然記念物などの指定を受けている可能性もあります。したがって巣を撤去する場合には、行政と相談して進める必要があります」
いくら危険といえども、巣を撤去しようとするまえに、自治体の専門家に相談したほうがいいということだ。
「タカが、本来の生息地ではないキャンパスに巣を張ったのは、それなりの理由があってのことでしょう。卵を産んでからヒナが巣立つまでの期間は2~3ヶ月程度。ひとまずは頭上に注意をして、巣立ちを待ってから、巣を撤去するのが望ましい対応だと思います」
藤田弁護士はこのように締めくくった。