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盲導犬を刺傷して「器物損壊罪」とはおかしくないか――なぜ「傷害罪」でないのか?
ラブラドール・レトリバーは盲導犬に向いた犬種と言われている

盲導犬を刺傷して「器物損壊罪」とはおかしくないか――なぜ「傷害罪」でないのか?

さいたま市の全盲の男性が連れていた盲導犬の「オスカー」(雄8歳)が傷つけられた事件が議論を呼んでいる。報道によると、警察は、オスカーが7月下旬、何者かに刺されてケガをしたとみて、器物損壊罪の容疑で捜査を進めているという。

これに対して、全日本盲導犬使用者の会は、犯人に対する憤りを表すと同時に、「現状の刑法における『器物損壊』と言う言葉で、私たちのからだの一部とも言える盲導犬が1つの『物』として扱われてしまうことに、やり場のない思いを感じています」と、ネットで声明を発表した。

ネットでも、盲導犬を「器物」と扱うことについて、違和感を表明する人は少なくない。全盲の人にとって、まさに「目」の代わりである存在を傷つけられたのだから、傷害罪を適用すべきではないかという声もある。こうした主張が認められる可能性はあるのだろうか。谷原誠弁護士に聞いた。

●盲導犬は「物」として扱われてしまう

「一般的な感覚からすると、違和感があるかもしれませんが・・・」と谷原弁護士は前置きした上で、次のように続ける。

「他人の盲導犬やペットなどを傷つけると、『器物損壊罪』という刑罰が適用されます。盲導犬やペットなどは、法律上『物』として扱われるからです」

だが、器物損壊罪の懲役刑は「3年以下」だ。傷害罪の「15年以下」に比べると、ずいぶん軽い。なぜ、傷害罪を適用できないのだろうか。

「『傷害罪』は、『人間の身体』を保護するために設けられた規定だからです。

たしかに、盲導犬は、盲導犬使用者の『目』としての働きがあり、身体を補う役割を担っています。盲導犬使用者としては、『物ではない、自分の身体の一部だ』と感じることも、もっともだと思います。

しかし、刑罰という重大な不利益を科す刑法は、厳格に解釈しなければいけません。『人間の身体』と『動物の身体』とは区別する必要があるのです」

●法律上の表現を変える必要がある?

結論に違和感を覚える声は少なくないが、こうした現状をどう考えればよいだろうか。

「生命のない純然たる『物』と、生命をもった盲導犬やペットなどを同列に扱っていることが原因だと思います。

国民感情を考慮するのであれば、盲導犬やペットなど、人間とともに暮らす動物については、法律上の表現だけでも変更したほうがよいのかもしれません」

谷原弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

谷原 誠
谷原 誠(たにはら まこと)弁護士 みらい総合法律事務所
1994年、東京弁護士会登録。著書に「人を動かす質問力」(角川書店)他多数あり。テレビ朝日「報道ステーション」他テレビ出演も多数。 ブログ:http://taniharamakoto.com/ 弁護士による交通事故SOS:http://www.jikosos.net/ 弁護士ドットコム紹介URL:http://www.bengo4.com/tokyo/a_13101/l_121226/

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