引き継ぎもないまま、急に同僚が辞めた。上司からその同僚の仕事をお前がやれと言われた――。そんなとき、辞めた人がやり取りしていた「会社メール」を見ることができれば、仕事の進捗状況など、役に立つ情報が残っているかもしれない。
東京都内のIT企業で働くAさんは、そんな風に考え、「辞めた同僚のメールを見せて」と会社に頼んだ。しかし、会社からは「個人情報なので見せられない」と言われてしまったそうだ。
たしかに、会社のメールには私的なやりとりが含まれる場合もある。だが、主な内容は、仕事に関する情報のはずだ。会社のメールアカウントでのメールのやりとりは、「個人情報」にあたるのだろうか。それとも会社は自由に内容をチェックしたり、中身をのぞいたりできるのだろうか。企業法務にくわしい片上誠之弁護士に聞いた。
●会社の規則・規定に明記されているか
「会社メールアカウントでのやりとりについては、労働者のプライバシーとして保護される場合と、保護されない場合の両方が考えられます」
プライバシーとして保護されない、つまり、会社や同僚がチェックできるのは、具体的にはどんな場合だろう。
「たとえば、会社の就業規則やインターネット利用規程などで、会社メールアカウントでの私用メール利用が禁止されており、メール内容が監視され、無断で点検・抜き打ち調査されることが明記されている場合です。
こうした場合、会社メールアカウントでのやりとりは、プライバシーとして保護されません」
なぜ、そういえるのだろうか。
「このような場合には、会社メールアカウントはプライバシーのない通信手段であることが前提となっているといえるからです。
そのため、会社は、メール内容の監視や点検・抜き打ち調査をすることができるのです」
●労働者のプライバシーとして保護される場合も
では、次に、「保護される」のはどんな場合だろう。
「明確な就業規則、インターネット利用規程などが整備されていない場合です。こうした場合、会社メールアカウントでのやりとりも、労働者のプライバシーとして、ある程度は保護されます」
ある程度ということは、「どんな場合でも保護される」という意味ではない?
「そのとおりです。会社がメール内容を調査する合理的な必要性があり、また、調査の態様や手段がそれにふさわしければ、会社が労働者の同意なくメール内容を確認、調査できる場合もあります。たとえば、会社の機密情報が外部に漏えいした場合に疑われる従業員のメール内容を調査するケースなどがこれにあたるでしょう」
そうなると、取引先に迷惑をかけないために必要不可欠ということであれば、場合によってはチェックが許されることもあるということだろう。
片上弁護士は「いずれにせよ、労働者の立場からは、会社に知られたくないやりとりであれば、会社メールを利用したやりとりは避けるべきでしょう」として、会社メールの使い方について注意を促していた。