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W杯ファンを驚かせた試合中の「かみつき行為」 暴行を加えても「逮捕」されないの?
スポーツの試合中の「暴力行為」は、法的な責任が検討されないのだろうか?

W杯ファンを驚かせた試合中の「かみつき行為」 暴行を加えても「逮捕」されないの?

ワールドカップ・ブラジル大会の試合中に、対戦チームの選手の肩にかみついたとして、国際サッカー連盟(FIFA)は6月26日、ウルグアイ代表FWのルイス・スアレス選手に、公式戦9試合の出場停止処分を科したと発表した。

この処分によって、スアレス選手は決勝トーナメントに出場できなくなる。同選手は24日におこなわれたイタリア戦で、相手DFのキエッリーニ選手の肩にかみついたとされる。そのときは退場等の処分を受けなかったが、試合後の調査を経て、処分が発表された。また、4カ月のサッカー活動の禁止や、罰金10万スイス・フラン(約1130万円)なども合わせて科される。

スアレス選手といえば、これまでも試合中に「かみつき」行為をおこなって、出場停止などの処分を受けたことがある。他人に「かみつく」という行為は、ピッチ外だったら犯罪に問われそうだが、スポーツの試合ならば、警察に逮捕されて裁判にかけられることはないのか。辻口信良弁護士に聞いた。

●ルールで認められない暴行は「違法」

「どこの法律でも、他人に暴行を加えた場合、暴行罪に問われ、その暴行で相手がケガをすれば、傷害罪になります」

辻口弁護士はこのように説明する。では、スポーツの試合中に暴行をおこなったケースは、どうなるのだろうか?

「その暴行に、『理由があるか否か』がポイントとなります。もし、その暴行に正当な理由があれば、『正当業務行為』として責任を問われません(刑法35条)。

たとえば、ボクシングで考えてみましょう。ボクシングは対戦相手を殴って倒すことで、勝敗を決めるスポーツです。相手を殴ることがルール(正当行為)ですから、殴らない(暴行しない)というのはナンセンスです」

つまり、正当な理由があれば、その暴行も正当化される可能性がある、ということだ。今回のスアレス選手のように試合中に相手に「かみつく」という暴行をはたらいた場合はどうだろうか?

「ルールで認められていない暴行は、違法となります。そもそもサッカーは、ボールを蹴って、相手のゴールに入れるスポーツです。そして、ルール上は、乱暴で危険な行為は反則とされています。

したがって、理論上は、故意の暴行をおこない、それが傷害をともなえば、試合会場で現行犯逮捕されてもおかしくありません」

こう述べたうえで、辻口弁護士は次のように続ける。

「ただ、試合会場は、非日常的空間で、独特な雰囲気があり、仮に現場での逮捕劇などがあれば、試合そのものがぶちこわしになり、場合によってはサポーターが暴れるなど収拾がつかなくなる可能性もあります。したがって、今回のスアレス選手のように、事後的に内部的処理で決着することが多いのです」

●約1000万円の罰金は「社会的制裁として大変重い」

だが、相手のケガが重大であれば、事情が異なってくる。「その場合は、試合後に、刑事事件の犯人として逮捕・処罰されることもあるでしょう」と、辻口弁護士は指摘する。

「報道によると、スアレス選手には公式戦9試合の出場停止、4カ月のサッカー活動の停止のほか、10万スイスフラン(約1130万円)の支払いが命じられたとのことです。

その支払命令額は、国家が刑罰で科す罰金刑とは異なりますが、罰金刑として処理される場合、傷害罪では50万円以下、暴行罪では30万円以下(いずれも日本の刑法)ですから、約1130万円は破格の金額で、社会的制裁としては、大変重い内容です」

もっとも、スアレス選手は、世界的に話題になった事件だけでも過去に2回かみつき行為が問題になっている。

この点について、辻口弁護士は「有名なサッカー選手として、青少年に対する悪影響も考えると、スポーツマンとしては失格ですね」と批判する。

ただ、ウルグアイサッカー協会は、スアレス選手に対する処分が重過ぎるとして、FIFAに異議を申し立てる意向だと、報じられている。

「彼が出場できない決勝トーナメントのコロンビア戦の結果も含め、今後も注目したいと思います」

辻口弁護士はこうまとめていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

辻口 信良
辻口 信良(つじぐち のぶよし)弁護士 太陽法律事務所
大阪弁護士会所属。日本スポーツ法学会理事、30年以上にわたり、主として選手側からスポーツ問題で発言。ヤクルトスワローズ古田敦也・ガンバ大阪宮本恒靖各選手らの代理人、2013年に指導者による暴力問題を告発した全柔連女子15名の代理人を務める。失敗に終わったが2008年の大阪オリンピック招致の市民応援団長。モットーは「スポーツの平和創造機能」と「スポーツにおける負けるが価値」。その他、離婚・相続等民事事件全般を取り扱う。著書に『平和学としてのスポーツ法入門』(2017年、民事法研究会)、ブログ「スポーツ弁護士のぶさん」(http://dreamannob.cocolog-nifty.com/blog/)。

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