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入試の「不正行為」 試験問題「途中持ち出し」は犯罪か?

入試の「不正行為」 試験問題「途中持ち出し」は犯罪か?

大学入試センター試験で、奇妙な「不正行為」が発覚した。2013年1月19日と20日に行われ、57万人が受験したセンター試験。長崎県の受験生が地理歴史・公民の試験時間中に途中退出して、問題冊子を外に持ち出し、予備校関係者に渡したというのだ。

大学入試センターは、「受験上の注意」と題された文書を公式サイトで公開しているが、「不正行為」の一つとして、「試験時間中に、問題冊子を試験室から持ち出すこと」をあげている。今回の受験生の行動はこれにあたるとして失格になった。

さらに、このような不正行為をはたらいた受験生や問題冊子を受け取った予備校関係者は、「犯罪」を行ったとして裁かれる可能性はあるのだろうか。相沢祐太弁護士に聞いた。

●「偽計業務妨害罪」のほか、「窃盗罪」や「建造物侵入罪」の可能性あり

「まず、大学が警察に通報したという『偽計業務妨害罪』(刑法233条)の余地はあるでしょう」と相沢弁護士は指摘する。

「報道によれば、問題冊子を隠さないで持ったまま、試験監督員に申し出て退出したようですが、刑法で要件とされている『偽計』には、積極的に人を欺く行為だけでなく、人の錯誤や不知の状態を利用する行為も含まれる、というのが裁判例の傾向です。

したがって、今回の持ち出し行為も『偽計』に該当すると考えられます。他の受験生への漏洩という実害は未確認のようですが、少なくとも通常の監督業務は妨害されていますし、同罪が成立しないというわけではありません」

このように説明したうえで、別の犯罪が成立する可能性にも言及する。

「今回の受験生の行為は、試験時間中の持ち出しを禁止するという監督側の意思に反して、試験室から問題冊子の占有を移転したものですので、『窃盗罪』(刑法235条)の余地もありますし、不正目的で受験会場に入ることは、大学側の意思に反する立ち入りであり、『建造物侵入罪』(刑法130条)の余地もあります」

このように、試験の途中で問題冊子を持ち出すという行為は、偽計業務妨害罪のほか、窃盗罪や建造物侵入罪の可能性があるようだ。もっとも、相沢弁護士によると、「いずれの罪も故意がなければ成立しませんし、報道内容からすると、実際に処分される可能性は低そうです」ということだ。

●京大カンニング事件との違いは何か?

一方で、2年前に京都大学の入試で起きたカンニング事件では、インターネットの「Q&Aサイト」に入試問題を投稿した受験生が逮捕された。なぜ、このときは逮捕されたのに、今回は違うのだろうか。

「推測ですが、京都大学の事件では、不正行為の実態や規模が当初不明であり、大学の被害届により警察が本格的に捜査に着手していた上、『Q&Aサイト』への投稿者として特定された受験生が所在不明となっていたことから逮捕に踏み切ったと思われます。

今回は、当該受験生がすぐに判明して持ち出し行為を認めた一方で、不正の意図までは否定しており、犯罪の成否が微妙であることや、おそらく被害届も提出されていないということによるのではないでしょうか」

これから本格的な入試シーズンがやってくる。受験生には、犯罪が成立するかどうかに関わらず、「受験上の注意」を守って、他の受験生や受験会場などに迷惑がかからないようしてもらいたい。

(弁護士ドットコムニュース)

 

プロフィール

相沢 祐太
相沢 祐太(あいざわ ゆうた)弁護士 ふじ総合法律会計事務所
主な論考等「いわゆる近接所持の窃盗事件について無罪とされた事例」(大阪弁護士会刑事弁護委員会『刑弁情報』第40号)

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